打ち合わせ【金.ヨウスケ】
【金曜日】
==ヨウスケ==
「俺とお前は恋人同士、オーケー?」
「何度同じ確認するんですか、仕事してください。温度チェックしました?」
「まだだな。今からやろうと」
「私がやってくるんで、センパイは洗い物片づけててくれませんか?」
「はいよ」
汐田の指示に従って洗い物に手をかける。どちらが先輩かわからなくなりそうだ。
そしてこのやり取りでまずいなと改めて思う。このままだと、汐田は同じ様子で明日も来そうだ。この状態で付き合っているように見えるだろうか。まあ本当は付き合っていないから正しいんだけども。
「センパイ」
作業から戻ってきた汐田から背中越しに声がかかる。
「何?」
洗い物が途中なので、顔だけ向けて言葉を返す。汐田も別の作業を始めたようで、お互い背中合わせのまま会話を続けた。
「私たちが付き合い始めたきっかけ、センパイが街中で一目ぼれして、私も一目ぼれして付き合うことにしたってことにしときますね」
「えっ。なんだって?」
「付き合ったきっかけですよ。聞かれたとき用に設定作っておかないとすぐにばれますよ?」
「ああ、なるほど。でも一目惚れかあ。現実味無いな」
「いいんですよその方が。ボロ出にくそうですし」
「確かに。そこまで考えていなかったわ。危なかった」
「だと思いました」
「よし、じゃあ街中じゃなくてバイトで知り合ったことにしようぜ」
汐田のアイデアに乗っかる形で考えを付け足した。格好悪いが、汐田のアイデアにそのままただ乗っかるだけより格好はつく。
事実に沿って、俺と汐田がバイト仲間であることを述べておいた方が設定は強固になる。嘘に真実を混ぜると嘘が現実味を帯びてくるというやつだ。我ながら名案だと思う。
「私はそれでもかまいませんけど」
「けど?」
「バイトの後輩に手を出したって、あんまり心象よくなくないですか?」
「あ」
言われてみれば確かにそうだ。
「もし私が高校生ってばれたときに、高校生と知ってて手を出すってのも心象悪いですし、街中で一目ぼれなら、年齢を知らなかったように聞こえますよね?」
汐田の言葉を受けて、脳内シミュレーション。
最初から年下と分かっていて付き合うのと、付き合い始めたから年下だと知るのでは印象に差がつく気がする。汐田が少し大人びている雰囲気を持っているのもあって、後者の説も不自然さはあまり匂わなさそうだ。
「お前、そこまで考えてたのか」
「まあ、一応お金を頂くことですし、しっかりやりますよ」
「ありがとう。頼んだのが汐田でよかった」