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第一章 ―「外」の子供達― *2*

 第一章 ―「外」の子供たち― *2*


 2


「カナタ!!」

 ギガンテスを無事格納庫に収め、ヘルメットをはずしたところで、カナタは遠くから呼びかけられた。

 格納庫には、五重六重に拘束具をつけられたギガンテスが、二体並んでいる。

 一体は、先ほどまでカナタが操縦していたモノで、全身を赤く濡れたプレートで覆われ、その装甲は全体的に丸みを帯びていた。

 もう一体は、全身を同じくプレートで覆っているが、その装甲は赤ではなく、白っぽい橙色をしており、カナタのギガンテスよりも肉厚で力強いイメージがある。

 事実、カナタのギガンテスと、その橙色のギガンテスは、同じ体育座りのポーズをとっているのに、橙色のギガンテスの方が頭一つ分大きい。

 立ち上がれば、更にその差は大きくなるだろう。

 その橙色のギガンテスから、カナタ同様の戦闘衣とヘルメットに身を包んだアユミが這い出て、カナタを呼び止めた。

 アユミがヘルメットを外すと、中から短く切られた黒い髪と、同じように黒い大きな瞳が現れる。

 その両眼は怒りで、ギガンテスの武器のように熱く燃えていた。

「カナタ、何であんたはいつもいつも独りで突っ走るのよ!」

「……キマイラが出た」

 感情豊かに怒りを表すアユミと対照的に、カナタは無表情で答えた。

「そんなの分かってるわよ!だから、私達に出動命令が出るんじゃない!」

「キマイラが出た。だからは俺は出撃する。それ以上に理由が要るのか……!?」

 しかし、アユミは理解していた。

 カナタの顔は無表情でも、その瞳の奥には「憎悪」と言う名の炎が燃え滾っていることを。

「理由なら要るよ。私、あんたに死んで欲しくないもの」

 言葉にはならない程の憎悪。

 それが、この「外」には溢れ過ぎるほどに、溢れている。

 それは、アユミにも、痛い程よく解っている。

 だからこそ、言葉にせず、想いで伝えたかった。

「あっ……」

 アユミの濡れた瞳を、カナタは直視できず、無言で顔を背けた。

 アユミの背は、カナタよりも一回りは小さい。

 腕も、背中もカナタからすれば信じられない程細い。

 だが、彼女の方が自分よりもよっぽど「生きている」気がする。

 そのエネルギーが眩し過ぎて、カナタにはアユミの眼を見つめ返すことができなかった。

 ──この時の、カナタは、そう、自分に言い訳していた。

「……一秒でも早く倒した方が『(なか)』の評価は良い」

「『(なか)』なんてどうでもいいよ。どうせあいつらは、自分達さえ良ければそれでいいんだから」

「だろうな。だからこそ『(なか)』に篭って好き勝手言える」

 カナタは吐き捨てる様に、言った。

 アユミにも、その言葉に異論は無い。

 だが、生来の勝気な性格が災いして、彼女の言葉は思うように、その口から出てこない。

「と、とにかく!あんたと私はコンビなんだから、作戦を無視して好き勝手に戦わないでよね!」

 想いが言葉にならない言葉を生み、その言葉は彼女の喉元まで来たところで、勝手に違う言葉となって吐き出された。

「カナタのバカッ!」

 アユミは、自分のヘルメットをカナタの胸に押し付けると、大股で格納庫を出て行った。


 ◇


「おうおう、カナタ。男が女を泣かすんじゃねぇぜ。逆は良いけどな。どうせ、女に泣かされるような男は男じゃねぇ。ん?じゃ、やっぱり女を泣かせたことになるから、やっぱり誰も泣かせちゃ駄目なのか?」

 アユミが立ち去っていくのを、呆と眺めるカナタに、後ろから軽薄な声がかけられた。

「アンドウか」

 カナタに声を掛けた男は、白衣に茶けた髪とサングラスという謎の風体をしている。

 しかも、白衣の下はアロハシャツにジーンズを着込んでいた。

 カナタでなくても、話しかけられれば不信感丸出して対応したくなるだろう。

 そのアンドウを確認すると、カナタの無表情は、やや不愉快よりに微細な変化を見せた。

「だーからよぅ。人の事呼び捨てにすんなっての。俺はこれでもお前より一回り以上年上よ?一応みんなみたいに『アンドウ先生』って呼んでくれんかね」

「『一回り』ってどういう意味だ?」

「って、反応するのそこかよ。知らねーの?。鼠から始まって、牛で終わる十二支って年の数え方で、一年に一匹ずつ対応する獣が変わって一周するとまた鼠に戻るから、その一周以上……」

「なんだそれ?ジュウニシ?新しいキマイラか?」

「ああ、そうか。そりゃ今更年の数え方なんて気にするような余裕ある奴ぁいねーか。それがこの『外』なら尚更だわな」

「ん?なんだアンドウ。お前も俺を馬鹿にするのか?死ぬか?」

 口調こそは怒っているものの、カナタの表情には一切の怒りは見られない。

 もちろん冗談で言っているのだろうと、アンドウは信じているが、カナタの手が素早く短刀抜いたのを見て血相を変えた。

「ちょ、ちょちょ、待て!待てって!別に、誰もお前を馬鹿になんかしてねーよ!」

「しかし、さっきアユミも俺をバカと言った」

「ああん?ああ、さっきの痴話喧嘩のことか。ありゃ、別に本気でお前を馬鹿だと思ってるわけじゃなねぇよ。いや、バカだとは思ってるんだろうけど」

「?」

「だから、ほら、あー、なんつかーのかなぁ……。ああもう!そういうのは俺の仕事じゃねぇんだよ!いいかカナタ、人間なんでも言葉で表せるわけじゃねぇんだ。特に俺みたなクズ人間はろくな言葉なんて持てやしねぇ。そういうのは自分で確認しな」

 アンドウは、サングラスを外すと胸ポケットにしまい、カナタの眼を覗き込んだ。

 中には煌々と燃える炎が宿っている。

 自分の眼の奥にも、きっと同じものが見えるだろう。

 アンドウは一瞬虚しさを覚えたが、頭を振ってすぐに無駄な妄想を掻き消した。

「……俺には、言葉よりも数字の方が合っている。だが、お前は言葉よりも剣を選ぶようなことはするな」

 アンドウはため息を一つ吐くと、軽薄な仮面の下から、研究者の顔を表した。

「すぐにさっきの戦闘のデータをもとにギガンテスのソフトウェアをアップデートさせる。お前も来い、実体験者がいた方が、フィードバックの精度は上がる」

 カナタは、無言で小さく頷いた。


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