幕間 ―追憶― *2*
幕間 ―追憶― *2*
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さて、前回はどこまで話だろうか。
確か、結局「銀色の卵」が降りてきてから、当時の人間は素早く対応できなかった。って話だったと思う。
ただ、当時の事を想像するに、それは仕方がないことだったのかもしれない。
ホワイトハウスは、まずあの「卵」が降りてきてから、発生した地震の対応に追われていた。
当初想定よりは、遥かにマシだったとは言え、それでも震度九クラスの地震が起きたし、「卵」の着地点はかなり都心部に近い場所だったので被害はかなり大きかった。
しかし、その被害状況は正確にはわからない。
何故なら、「卵」の周辺の人間――いや、人間以外の動物、植物がばたばたと奇病に冒されたように死んでいったからだ。
「奇病」の感染者は例外なく、まず最初に全身が青紫色になる。
──これは、今でも変わらない。
その後、ぐずぐずと体が融解し、挙句の果ては地面に吸い込まれるように、もしくは大気に溶けるように消えてなくなるのだ。
人々は奇怪すぎるこの現象の原因を、当然あの「卵」――ああ、もう面倒なので我々が今呼んでいる呼称に統一しても良いだろうか。
我々は、すでに九十%以上の確立で、あの「卵」は宇宙から来た「船」、いわゆる「宇宙船」、「UFO]だと予想している。
最初は敵国の作った生体兵器の類ではないかと考えられたが、そんなものをわざわざ「UFO」に見せかけるためだけに、宇宙まで飛ばす技術力があるなら、もっとまともな外交手段がいくらでもあるはずだ。
何よりも、あの「船」は全長で2キロメートル超あり、推定重量約78万トン(サイズから考えれば恐ろしく軽量だが)もある。
私が今、この記録をつけている2038年現在でも、それだけのものを宇宙に打ち上げる技術はない。
話が若干ずれてしまった。
とどのつまり、我々人類の技術でなし得ないことが起きたので、我々は「船」を宇宙から来たものだと解釈したのだ。
これはもう、誰でも好き勝手に考えればいいことだ。
異世界でも、地底人でも、幽霊でも、妖精でも、何でも好きなものを持ってきてもらっていい。
それぐらい、その「奇病」が世界に与えた衝撃は大きかったという事だ。
当時の記録では、アメリカ軍は国連の要請を得ずに、素早く「船」にアタックをかけたらしい。
ごてごての化学防護服に身を包んだ、三十人ばかりの軍人が「船」との接触を試みようとしたところ、それは思いのほか成功だったらしい。
近隣住人のほとんどが奇病で死に絶えたにも関わらず、防護服の中にいた人間は奇病に冒されることはなかった。
また、近隣住民の中でも、家の中にこもっていた人間は比較的生存率が高かった他、今回の作戦時に車内から出なかった人間も無事だった。
こうした先人の試行錯誤の上で、我々の「今」の生活が成り立っているので、決して侮ることはできない。
しかし、結果としてこの作戦が余計なトリガーを引いた。
「船」まであと少しで手が届くという段階で、初めて「アレ」が現れた。
「ソレ」はどれも、共通の形をしておらず、牛、羊、犬、猫、中にはバッファローや、豹のようなモノもいたらしい。
ただ、どれもぐちゃぐちゃに輪郭がぼやけており、その不安定な輪郭を蚯蚓のようなモノが体中を出たり繰り返し、絶えずその形を変えていた。
それが、今の「キマイラ」の原型だろうと考えられている。
「キマイラ」は、防護服をやすやすと噛み千切るばかりか、彼らが携行していた銃器も残らず飲み込んだ。
もちろん、そのついでと言わんばかりに、もろい彼らの肉体も貪られた。
しかし、「キマイラ」はそれで満足することなく、周辺のビル群も「むしゃむしゃ」と食べ、周辺に待機していた戦車等も「ばりばち」と噛み砕いた。
何とか、喰われる前に一矢報いようと戦車が砲弾を放つも、「船」に当たる前にかならず「キマイラ」が身を盾にして船への攻撃を防いでしまう。
結局、勇敢な彼らの手をもってしても、「船」には掠り傷一つ付けることは叶わなかった。
それでも、かなりの数のキマイラを葬り、彼らは一定の戦果を挙げることができた。
それが、更なる悲劇を呼ぶとは知らずに、だ。




