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第三章 ―神無き祈りを捧げて― *3*

  第三章 ―神無き祈りを捧げて― *3*

 

 2


 ◇


 三人が戦闘後の汗を流し、それぞれの部屋に戻ろうとしたところ、アンドウから何気ない様子で声がかけられた。

「最近、君達の周りで、変わったことは起きてないかな?」

「変なこと?」

 メイが問い返した。

「ああ。その……見慣れない人影を見たりとか、街で誰かに跡をつけられてないかとか……」

「?」

 アンドウが何を言いたいのかわからず、三人で互いに目線を交わしたが、誰も理解した様子はない。

 それもそのはず、『毒子』や『病原体』等と陰口を叩かれ、都市の管理体制にあった三人は、生まれた時から誰かに監視されて育っている。

 最近は、それぞれに「自衛軍(の兵器)」として実績を重ね、特にアヤカの強い働きにより、以前よりはずっと自由度が増してきているとは言え、それでも基地にいようが街中にいようが、三人は必ず監視カメラでマークされている。

 その三人に、「見慣れない人影」や「跡をつける人物」がいても、即座にどこの誰か判明するはずだ。

 また、仮に変装していても都市カメラの認識システムならほぼ百%人物が特定できる。(セル化都市の唯一のメリットが、人口の大幅減少と流動化停止により人物特定が容易になり、犯罪が激減したことだろう)

「いや、私は信じていないんだけどね、誰かが『壁』を越えて、この東京に侵入したっていう噂があるんだよ」

 半笑いのアンドウの表情から、アンドウ本人もその噂を信用していないことがわかる。

「ええっ、だってあの壁確か百二十メートルはあるはずだよね?どうやって登るの?」

「さあ、私もさっぱり想像がつかんよ」

 メイの疑問に、アンドウは笑って答えた。

 しかし、カイとアヤカはメイのように単純には笑えなかった。

 理由は簡単だ。

 二人なら、百二十メートルある壁を単身でも登れるからだ。

 射撃や援護を得意とするメイよりも、近接戦闘を得意とするカイとアヤカの方が身体能力は遥かに高い。

「しかし、キマイラ対策で壁の頂上部のセンサーに触れれば、高圧電流が流れるはずだ」

「耐電スーツを着るとか?」

「まさか。高圧電流ならゴム製のスーツが熱で破けるよ」

「なら……」

 カイとメイのやり取りにアヤカが口を挟んだ。

「センサーを誰かが切れば、侵入(はい)れるんじゃ……」

「それこそ、まさかだよ」

 アヤカの仮説を聞き、アンドウが笑った。

 しかし、その笑みは先程よりも引きつって見える。

「都市の防衛装置に関するセキュリティは、それこそ軍の将官か政府の大臣クラスじゃないといじれんよ」

「だが、逆に言えば、そいつらに関係する奴ならセンサーに触れるわけだ」

 カイは断言するように述べた。

 だが、それでも誰かが侵入する可能性はありえないと思っている。

「しかし、もし誰かが侵入したとして、そいつはどこから来るんだね」

 アンドウは、三人に問い聞かせるように言った。

 まるで、自分自身を納得させるように。

 だが、現実として、この「壁」の中で暮らしていると実感は沸かないが、一歩外はキマイラに喰い散らかされた、『日本』の残骸が広がっているだけだ。

 噂によれば、『外』でも地下に潜って生き延びている人達がいるらしいが、そもそも生き延びるのが精一杯の彼らに、百二十メートルの壁を越えるだけの力はないだろう。(あれば、とっくに潜り込んで来ているはずだ)

 後は、日本各地に残り七つの都市があり、そこでも各自カイ達のような戦士が育成されているだろうが、わざわざ命を賭けて自分の都市を脱出する理由がわからない。

 また、何らかの事情で自分の都市を脱出したとしても、道路等も全て使い物にならないため、移動は徒歩しかないが、絶対に途中でキマイラに襲われて死亡する。

 結局、噂は噂として、実際に誰かが都市内に侵入したという具体的な根拠もなかったため、その場はすぐに解散となった。



 ◇


 その日の夜。

 カイは、自分の部屋に戻った時、強烈な違和感を感じた。(カイ達の「世界」は、さすがにカイ達が成長したころ取り払われ、通常に各自の個室を割り当てられている)

「誰だ?」

 電気を着けていなくても解った。

 部屋の中の空気が「濃い」。

 カイの鋭敏な嗅覚は、自分以外が吐き出した空気を敏感に感じとった。

「どうも、驚かせてすいません」

 カイの誰何(すいか)に、カーテンの裏から出てきた一人の男が出てきた。

「外国人?」

 カイが慎重に電気を付けると、男の姿が鮮明に見て取れた。

 男は、流暢な日本語を話しているが、金髪碧眼で生粋の欧米人に見える。

 体格は大きく、がっしりとした筋肉質で、かなり鍛えこまれているのがわかる。

 カイは、慎重に足の位置をすり足で動かし、すぐに動ける体重配置へ変更した。

 武器は、基地に入る前に全て、預かり所に引き渡してある。

 何かあれば、全て素手で対処しなければならない。

「初めまして、リチャード・キングです」

 しかし、カイの緊張した様子に反して、リチャードを名乗る男は気さくに、カイに握手を求めてきた。

 その動作は自然で、何の気負いも見られない。

「つぁ!」

 もちろん、カイは素直に握手に応じることなく、ここぞとばかりにリチャードの隙をついて素早く手刀を打ち込む。

 武器は無いが、練磨に練磨を重ねたカイの一撃は、素手でもコンクリートブロックを破壊する。

 単純な攻撃力なら、すでに姉のアヤカを凌ぐ。

「おっと!危ないですよ」

 だが、リチャードは難なく、カイの攻撃をいなし、合気道の要領でするりと腕を絡めとると、カイを後ろから羽交い絞めにした。

 ――強い!

 常人よりも人一倍腕力が強く素早いはずのカイが、まるで子供扱いされている。

 この時点で、カイは、助けを呼ぶことを止めた。

 誰かに助けを求めるのはカイのプライドが許さなかったし、最も早く来るのはカイの兄弟だ。

 自分でも適わない敵の前に、アヤカとメイを晒すわけにはいかない。

「誰だ?」

 カイは、先程の質問を繰り返した。

 しかし、さっきとは質問の意味合いが違った。

 カイには、本当にこの外国人に見覚えがなかったし、この基地内でカイよりも強い人間はいない。

「私も、君達のところで言う『毒子』です」

「!?」

 カイは、危なく大声を上げそうになるのを必死に抑えた。

「そして、ご察しかと思いますが、この都市の人間ではありません」

 カイは、先程までのアンドウとの噂話を思い出した。

 ――まさか本当だったと言うのか!?

「どうやって……いや、どこから来た」

 カイは、地図で見ただけの、残りの都市のマップを脳内に思い浮かべた。

 ここから一番近いのは、仙台都市だが、逃げ遅れた外国人が多かったのは大阪だと聞く。

 だがいずれにしても、徒歩で来れるような距離ではないし、途中でキマイラに襲われるのは確実だ。

 この男なら多少のキマイラなら単独でも退けられるかもしれないが、昼夜を問わず襲ってくるキマイラの群れに体力が持つとは到底信じられない。

 だが、リチャードの答えは、カイの想像を遥かに超えるものだった。

「アメリカです。アメリカはワシントンから来ました」

「そ、そんな馬鹿な」

 カイは、驚くよりも呆れてしまった。

 離着陸できる飛行場が全滅した現在、海を渡るには船しかないが、海中にもキマイラはいる。

 東京でも辛うじて軍艦を一隻保有するが、キマイラに破壊されないよう、地上では強固なドッグを設け、水中には鉄条網を幾重にもはぐらせと、維持費だけでも大変な状態だ。

 それを、あの広い太平洋を渡ってくるのは、仙台から東京まで走ってくるよりも非現実的である。

「信じられませんか?でも、あなた達も乗っているんでしょう?アレに」

 だが、リチャードの囁くような問いに、カナタは背筋が震えた。

「大型の人型キマイラですよ。この数日間、東京を見張っていましたが、驚きました。キマイラ侵攻が遅かった日本でも『ジャイアント』を開発しているとは」

「『ジャイアント』?」

「あの、改造人型キマイラのことですよ。人によっては『サスカッチ』なんて呼んでいる人もいますが……。いずれにせ、よただの『改造キマイラ』では味気ないでしょう?」

「キマイラは、キマイラで十分だ……!」

「そうですね、呼名はどうでもいいのです。問題は、アレが存在し、アレを操縦できる人間がいるということ……!」

 話をしていて興奮したのか、リチャードのカイを捕まえる手に力がこもる。

「ぐぅ……!」

「単刀直入に言いましょう。君、私達の仲間になりませんか?」

「なん……だ、と!?」

「アレが操縦できるということは、君も間違いなく『毒子』の一人のはずです。ならば、感じてきたでしょう!?我々のこの閉鎖された都市での存在意義!差別された待遇!何もしていないにも関わらず嫌悪の眼で見られ、侮蔑の言葉を投げかけられる!」

 カイは、自分の後ろで好き放題にわめくリチャードの言葉を聞いて、愕然とした。

 ――そんなことはわかっている。

 ――言っても仕方が無いことだ。

 ――この狭い都市の中で、『敵』と見なされれば一瞬で排除される。

 だからこそ、カイ達三人は表面上反抗を納めた。

 全ては、本当の自由を得、三人の「世界」を取り戻すためだ。

 だが、この男、リチャードは堂々と『敵意』を、都市に都市に住まう全ての人間にぶつけている。

 そして、リチャードの声に含む狂気に、賛同している自分を強く感じてしまっている。

「私達に、仲間はたくさんいます。本当の平等を望む仲間達が……!そして、もちろんこの東京の中にも!」

「馬鹿な!この『(なか)』に、そんな……うっ!」

 リチャードの力が緩んだ瞬間、カイは拘束を振り解いた。

 しかし、すぐに背中にちくりとした痛みが走り、体が動かなくなる。

「即効性の痺れ薬です。『私達』がこの基地に出るまで、大人しくしてもらいます」

「ぐ……ま、待て…!」

「いずれまたすぐ会うでしょう。それではまた、カイ君」

「っ……!」

 リチャードが、カイの部屋の窓を開けて、飛び降りようとする。

 ――何故俺の名を?

 だが、カイの口から出た問いは、頭の中で浮かんだものと別だった。

「お、お前らの、目的は何だ……!?」


 そこで、リチャードは初めて顔から笑みを浮かべ、こう答えた。


「『壁』を壊し、真の平等を取り戻すこと――」


 と。

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