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第二章 ―本当の敵― *1*

 第二章 ―本当の敵― *1*


 1


 気がつくと、辺り一面真っ白で、何も見えなかった。

 これは、光だ。と気づいた時には、すでに眼を細めていた。

 しかし、腕が動かず、手で顔を覆うことができない。

 それどころか、体中のどこも動く気配がない。

 まるで体全部が全て贋物(ニセモノ)か、人形になったようだと、カナタは感じた。

「やっと、気がついたようだな」

 ぬっ、と影が視界を覆ったと思うと、眩しい光源をバックに一人の老人がこちらを覗き込んでいるのが見えた。

 老人の後ろと、カナタの周辺で複数の人間が忙しそうに走り回っている気配がする。

 だが、それも全てフィルターにかかったようで、はっきりとは聞こえない。

「まだ、起きるのは無理だろう。もう少し寝てたほうがいい」

 老人の声が聞こえる前に、カナタの意識は、再度深い眠りに落ちた。


 ◇


 二回目に気がついた時も、辺り一面は真っ白だったが、眩しくはなかった。

 どうやら、周辺のモノが本当に真っ白なようだ。

 天井も、壁も、そしてカナタが寝ているベッドのシーツも真っ白だった。

 左手すぐ横には、大きな窓があり、右手には小さな台とドアがあった。

 どうやらここは病室らしい。

――すごい。

 カナタは声に出さず感嘆した。

 カナタのいる基地の診療所では、基本的にベッドも何も黄ばむか、茶けていて不衛生だ。

 水が貴重なので、清潔な環境が求められる治療場でも、洗濯等は十分にできない。

 せいぜい、傷口に直接触れる包帯等が、どうにか清潔感を保っている程度だろう。

 しかし、この部屋はシーツどころか、部屋の中も壁も、そして空気さえも淀まず綺麗なままだ。

――ここは、どこだ?

 どう考えても、自分のいた基地とは思えない。

 それどころか、この世の場所とも考えることができなかった。

 なんと、窓の外を見ると青々と生い茂った木々や草があり、その下で子供達が元気に遊びまわっている。

――これが、天国なのか?

 カナタは、死後の世界を信じた事はない。

 それでも、そう考えるしか答えが思いつかない。

「やあ、起きたかね」

 カナタが、ベッドに寝たまま辺りをきょろきょろと見回していると、ドアが開き、一人の老人と少女が入ってきた。

「……っ」

 カナタは、老人に声を返そうと思ったが、腹に力が入らず空気が漏れるばかりで声にならない上、頭にも霧がかかったようで、全くはっきりしなかった。

「ああ、無理をしてはいかん。私はアンドウ。彼女はムナカタ君だ」

 老人の後ろで、少女が無言で目礼をよこしてきた。

 アンドウと名乗った老人は、豊かな白髪と、髪に負けないぐらいふさふさとした量の多い白髭で、深い皺の多い顔だが、体格は筋肉質であまり老人らしくない。

 逆に後ろの少女は、髪や眼の色素が薄い他、全体の線が細く、今にもポキリと折れてしまいそうなイメージがある。

 対照的な二人だと、カナタはぼんやりと思った。

「君達の戦いは、我々も監視モニターでしっかりと拝見させてもらった」

 しかし、次の老人の一言で、カナタの脳内の靄が晴れ、『あの』戦闘の記憶が蘇った。


 (ワニ)頭の巨大キマイラ。

 キマイラに射撃を繰り返すウララ。

 そのキマイラの顎に自ら飛び込んだカナタ。

 そして、カナタを救おうと、死に物狂いで槍を突き立てていたアユミ。


「……!!」

「あ、こらこら。興奮しちゃいかん」

 カナタが、アンドウに掴みかかろうと体を起こすと、ベッドの横の機械が耳障りなアラームを発する。

 すぐに、ムナカタがカナタの体を押えた。

 その力は弱く、普段のカナタであれば微風程にも感じなかったかもしれないが、今のカナタはあっさりとベッドに押し戻された。

「ア、アユミは……」

 だが、カナタの眼は爛々と燃え、アンドウ老人をしっかりと捉えた。

「アユミ?誰のことかな?」

「橙、色のギガ、ンテス……」

 一言一言が、血を吐くように重い。

 それでも尋ねずにはいられなかった。

「ふむ。橙色ね。ああ、君と一緒に戦っていたあの改造人型キマイラか。ギガンテスとは、随分洒落た名前だね。誰が考えたのかな?」

「……っ」

「おお、おおあまり睨まんでくれ。すごい眼光だな。やはり『外』の人間は迫力が違う。こんな少年でも、まるで飢えた野獣のようだ」

 老人は肩を竦めると、ゆっくりと語りだした。

「良いだろう。あの戦闘の後のことを教えよう。ただ、君が余りにも興奮するとドクターストップで、君をまたベッドに縛り付けなければならなくなるから、落ち着いて聴いてくれよ」



 ◇


 老人が訥々(とつとつ)と語ったことをまとめると、次のような事だったらしい。

 赤い改造人型キマイラ――カナタ達がギガンテスと呼ぶ兵器だ――が、何を思ってか巨大キマイラの中へと自ら飛び込んだ後。

 青いギガンテスが、巨大キマイラにへばりついていた橙色にタックルを敢行。

 直後、赤いギガンテスは真っ二つに食いちぎられ、巨大キマイラに飲み込まれたように見えた。

 しかし、次の瞬間には巨大キマイラは腹が膨れ上がり、そのまま大爆発を起こした。

 様々なキマイラのパーツが飛び散る中、ちょうどキマイラが上を向いていたため、赤いギガンテスも粉々になりながら、空高く吹き飛んだ。

 その勢いは凄まじく、なんと一五〇メートルの壁を飛び越え、『(なか)』にまで達したと言う。


「な、なん……だと、それ、じゃあ。はぁはぁ……ここは、『(なか)』だって言うのか……!」

「『(なか)』ね。ふむ、実に大雑把な捉え方だ。君らはここをそう呼ぶのか。正式にはここは東京と呼ぶのだが……まあ、君らにとってはここの名前なんてどうでもいいのだろうなぁ」

「そ、そんな事は……ぜぁあ、ぐ……どうでも、いい。アユミは、橙色のギガンテスはどう、なった…」

 カナタは、唇を噛み切り、遠のく意識を抑えながら、必死の思いでアンドウ老人の胸倉に掴みかかった。

「うん。爆風は、奇跡的に上方向へ集中したため、地面に転がった二体の改造人型キマイラは無事だったようだ。もちろん、君の住んでいたと思われるベースも無事なようだよ」

――良かった。

 老人は、まだ何事か言っていたようだが、カナタはそこまで聞いた途端、再び意識が途切れた。


 カナタは、まぶたが落ちる瞬間、ムナカタと呼ばれた少女と眼が合った気がした。

 

 色素の薄い少女の眼は、不思議と紫色を帯びているように見えた。

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