もしかして:かわいい
・企画名:もしかして:かわいい
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/46398/blogkey/567364/
・企画概要
『かわいい高校生の女の子を書く』
見た目ではなく仕草、言動、存在などでかわいいと思わせる。
かわいいの解釈は自由。とにかく読んで「この子かわいいな」と思える作品を書く。
世界観設定は現代学園物。剣と魔法のファンタジー世界や近未来を含むSF世界は無し。
私、知っています。
人間、見た目で決まりますよね。だいたい見た目で色々決まっちゃいますよね。
決めますよね?
人間は見た目じゃない、中身だ。なんて素敵な言葉もありますが、現実はなかなか厳しいです。
だって顔が良ければ、性格を、中身を知ろうとしてもらえますし、ひょっとしたら多少の性格の乱れは気にしないかもしれませんし。
そもそもかわいくないと相手はこちらの性格を知ろうと努力してくれないじゃないですか。知ってもらえるのなんてもう完全に運頼みですよ。
かわいいは正義と言われ、かわいいとちやほやされ、かわいいと色々許されます。
かわいいはまさよし。
例えば眼鏡。眼鏡っ子って一部で人気があるそうなんですが、眼鏡をかけたらかわいいと評価されるわけじゃないです。かわいい女の子が眼鏡をかけているからこそ、評価されるのです。美人はなにかとお得です。心底羨ましいです。
私、前川由貴子はそう思います。
「前川後輩。違うなそれは。いいか。かわいい女の子は眼鏡をしていなくてもかわいい。だから『眼鏡っ子』とは言わない。『眼鏡っ子』とは本来、眼鏡をしている時だけ『かわいい』と賞賛される子を意味する言葉なのだ。言い換えれば、眼鏡を外したらざんね……普通の女の子だが、眼鏡をかけていればそこらの美人など相手にならない至高の存在。これが真なる意味の『眼鏡っ子』だ」
二〇一二年十二月十九日水曜日。予報は曇りのち晴れですが空はまだ灰色の雲で覆われています。最低気温は3℃。現時点の温度は9℃でそれはつまり、最高温度も9℃という意味でもあります。
そんな日の午後、生徒会室に向かっている私の隣を歩く先輩は、きっぱりはっきり真っ向から否定しました。
二年生の上村先輩。
成績は学年で一番、かどうかは知りません。そもそもテストの結果を張り出したりしないですし。でも悪くはないと思いますよ。
スポーツも万能、かどうかは知りません。でも休み時間にバスケをしているのを見かけたましたがなかなかにお上手でした。
女子に人気がある、のは知っています。去年、バレンタインでもらったチョコは三十個を超えたと聞いています。
でもこの人、ばかです。ご高説は続きます。
「つけ加えておくぞ。ここは大事なポイントだ。いいか、度の入ってないレンズ、つまり伊達眼鏡だが、あれはだめだ。そんな積極的着用では眼鏡の女神は微笑まない。絶対にだ。眼鏡がないと生きていけない。そんな鎖に縛られているからこそ生まれる守りたくなるような雰囲気。目が悪く、眼鏡の補助がなければどうしようもないという消極的着用に眼鏡の女神は微笑む」
しかもこの人、変です。
先輩は先月行われた生徒会選挙で選ばれた生徒会副会長。有能なのですが、かなりマイペースといいますか。理論がここではないどこか別世界の常識といいますか。割とおかしいといいますか。
だから会議は揉めます。
先輩のスケジューリングはいつも完璧で一度決まった予定が変わることなど無いのですが、即断即決無駄なく無理ありな会長との相性は直線と曲線と考えるなら最悪で。凸と凹と考えるなら完璧で。とばっちり喰らうのはなぜか書記である私で。でも後輩たる私は先輩のお話にきちんとリターンするのもお仕事で。
「では、かわいい子が伊達眼鏡をかけてるだけでは『眼鏡っ子』じゃないというのですか」
「その通りだ。だが眼鏡はすごいからな。単にかわいい子が伊達眼鏡をかけているだけでもある程度ポイントが上がる。これも眼鏡の魔力ということかもな」
「つまり、眼鏡を褒めてるんですよね?」
「厳密には違うな」
「何が違うんですか?」
「そうだな。例えば新しい服を買ったとしよう。で、今日それを着てきたとする。『おお、かわいいな』と心から賛辞を贈ったとするだろう。それは服だけか? それとも服と、それを着ている女の子ひっくるめてか? どっちだと思う」
む。変態のくせになかなか鋭い例えを出してきますね。やや腹立たしいです。
「服と、それを着ている女の子だと思います」
「その通りだ。だから僕は眼鏡と、そして眼鏡を着用している女の子両方をひっくるめて『かわいい』と言っているのだ。そして最初に言ったが、眼鏡の似合う子は眼鏡をかけていればそこらの美人など相手にならない至高の存在なのだ」
なるほど。この人、真性のばかです。もはや神聖の域に達しているかもしれません。ですが役職こそ書記なれど私の役目は会長、副会長への反応と応答。第十九代生徒会が結成されてからわずか数日でこの地位へと追い込まれた私の腕は伊達ではありません。律儀にきちんとリターンします。
「先輩の『眼鏡っ子』理論は分かりました。で、何が言いたいのですか?」
「前川後輩。君は―― 」
眼鏡をかけるべきだ。
先輩はそう言いました。
「君は眼鏡が良く似合うと思う。コンタクトから即刻切り替えるべきだ」
「それってつまり」
先ほどの『眼鏡っ子』理論に照らし合わせますと。
眼鏡をしていない私は視覚的には残念な子って意味ですね。
眼鏡という視覚的仕掛けがないと残念な子って意味ですね。
残念な子って自覚ありますし人にも言いますが人に言われると自虐にならないといいますか。とりあえず蹴っていいですか先輩。でも先輩なので、そんなことは思っても重すぎて言えません。
「先輩。私、眼鏡持ってませんから。以上」
「買うしかないな。なんなら僕が選んでやろうか?」
「結構です」
「良い眼鏡を選ぶ自信があるのだが」
「いりません。もし買うとしても自分で選びますから。と、いいますかどうしても私に眼鏡をかけさせたいなら選ぶんじゃなく買ってください」
「なんで彼女でもない君の眼鏡を僕が買わなきゃならないんだ?」
「なんで彼氏でもない先輩に眼鏡を選んでもらわないとだめなんですか?」
「ふむ。一理ある」
「一理どころか真理ですよ」
「哲理なのだがな。眼鏡をかけるということは」
「なんで眼鏡かけるのが人生の根本にかかわる深遠な道理なんですか。意味がわかりません」
割と本気で意味が分かりません。万事この調子なので、会議の度に会長が怒るのも無理ありませんし、そもそも私ならこの人と議論するなんてありえません。
「とにかく眼鏡をかけるべきだ。それで全てが代わる。世界が変わる。君に足りないのは眼鏡だけなんだ」
なんですか。先輩の『眼鏡っ子』理論に基づくと、もしかしてかわいいと言われたのでしょうか。眼鏡さえかければ。あまり嬉しくありませんね。というかぜんっぜん嬉しくないですね。この定義で褒められても。
「もう生徒会室に着きますよ。今日こそ終わらせましょうね。でないとまた会長キレますから。全部私にとばっちりがくるんですから」
「仕方がない。分かった、僕が買ってやろう」
「は?」
「そうだな……日曜は最終回を見たいからな。月曜に買いに行こう。午後から予定を空けておけ」
「え、や、ちょっと先輩!」
奮う私の反論などに振り向きもせず、先輩は震える携帯を確認します。
「急ぐぞ前川後輩。森沢優佳生徒会長のご機嫌がやや斜めだ。なんでだろうな。明日には終わると最初から言っているのに」
「いや先輩月曜日って! ちょっと待っ、ちょっと! 先輩っ!?」
私、知っています。
未だかつて先輩が立てたスケジュールは一度たりとも変更したことがないことを。
月曜日の予定が確実に完璧に確定してもう改変不可なことを。
ああ、眼鏡の女神様。もしいるならどうにかしてください。
ドラスティックよろしく