第五話「真相」
夜。
ジョンは自宅の鏡の前に立っていた。
いつもの服ではない。
黒いスーツに着替え、眼鏡をかける。
鏡の中に映っている男を見つめる。
「……これなら、分からないだろう」
ジョンは眼鏡の位置を直した。
これは単なる外出用の服ではなかった。
誰かに見られたとしても、自分だと気づかれないようにするためのものだった。
ジョンはその姿のまま、ポーカーの店へ向かった。
店内は夜遅くにもかかわらず賑わっていた。
テーブルには何人もの客が座り、カードを手にしている。
ジョンも席についた。
「相手は?」
「こちらの方です」
店員が示した先に、一人の男がいた。
上等な服を着た、裕福そうな男。
「ジェノだ」
男はそう名乗った。
ジェノには妻がいるという。
富豪として知られている一方、ポーカーでも頻繁に勝負をしている人物だった。
「よろしく」
ジョンはカードを受け取った。
勝負が始まる。
ジョンは慎重に相手の手元を見る。
だが、何度勝負しても結果は同じだった。
ジェノが勝つ。
また勝つ。
そして、また勝つ。
「おかしいな」
ジョンは呟いた。
ジェノは笑った。
「ポーカーなんて、運ですよ」
ジョンは黙っていた。
しかし、何度も続く勝利。
不自然なカードの出方。
そして、ジェノの視線。
ジョンは気づいた。
――イカサマだ。
ジェノは巧妙に細工をしていた。
生活のために、勝負を利用している。
ジョンは席を立った。
「今日はここまでだ」
「もう帰るのか?」
「ああ」
ジョンは店を出た。
夜の街を歩く。
しかし、怒りは収まらなかった。
自分が負けたこと。
ジョンは財布を見た。
ほぼ金はない。
あいつのせいで、金がとられた。
ジェノが不正をしていたこと。
そして、それを平然と続けていること。
ジョンの中で、何かが切れた。
「……許せない」
その言葉は、誰にも聞かれなかった。
ジョンはその夜、ある決断をした。
――ジェノを殺す。殺して金を奪ってやる。
深夜。
ジョンはジェノの家へ向かった。
黒いスーツ。
眼鏡。
周囲に人がいないことを確認し、建物の中へ入る。
そして、ジェノの前に現れた。
「お前は……!」
ジェノが驚く。
「よぉ」
ジョンの片手にはナイフ。
もう片方の手には拳銃を。
「イカサマを許すとでも思ったのか?」
ジョンは静かにジェノの前に座る。
「あぁ?!」
激しく怒鳴りつける。
ジェノは息を荒くする。
抵抗するかのように手を前に出す。
「すまない.....家族と生活の為なん.....」
「家族と生活のために俺の楽しみを奪うのか?」
拳銃を頭につきつける。
ジェノの目からは涙が出てきている。
「俺は一応探偵をしている.....今夜もこのあと妻とヤるのか?ローションの匂いがする。」
ナイフをゆっくりと腹へ当てる。
「このあとなんてない」
ジョンはナイフをゆっくり力強く押す。
ジェノは叫ぶ。
「許してくれ。頼む!」
「ただの賭け事だろ?!な?!」
「楽しみ何て.....また来るさ!な?!」
「お.....おい.....そうだよな?」
ナイフは進みを止めない。
ジョンは思いっきりナイフを前へ押し込んだ。
柔らかい感触がする。
ジョンの服は血まみれだ。
「ぎゃああああああああああ!!」
ジェノの口をふさぐ。
ジョンは腕を引くと再度前へ押し込む。
何度も何度も
「ふー!ふーふー!!!」
「うううううう!!」
腕に生ぬるい感触が伝わる。
あったかい血の感触だ。
ナイフは止まる勢いを知らない。
次第にジェノの声は聞こえなくなってきた。
「あなた……何をしているの?」
妻はジョンの姿を見て、凍りついた。
ジョンも動きを止めた。
目撃者。
それだけで、ジョンには十分だった。
「あなた.....何をしてるの?!」
ジョンは拳銃を差し出すとためらうことなく引き金を引いた。
スイッチの音が鳴り響く。
妻は勢いよく回転しその場に倒れた。
苦痛で叫びそうになる。
だが銃声で叫びはかき消された。
妻の体に穴がどんどん開いていく。
胸
足
手
顔
耳
そしてジョンは目に向けて銃弾を放った。
それ以降もう屋敷内で叫び声は聞こえなくなった。
ジョンは二人を車へ運び、トランクへ入れた。
夜の街には、何事もなかったかのように静けさが戻っていた。
車へ乗り込んだジョンは、しばらくハンドルを握ったまま動かなかった。
やがて、何気なくナビを見る。
画面には現在の日付と時刻が表示されていた。
**10/6 夜10時。**
ジョンはその表示をしばらく見つめた。
「……10月6日か」
エンジンをかける。
車が静かに走り出す。
「死体はブラッドに任せよう.....!」




