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乙女ゲームの世界に転生してよっしゃ勝ち組!と思っていたら内容がBLゲームに書き換わっていた件  作者: KP


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4/4

鬼教師と美人教師


私、アリシア・ヴェルブラント。王立学院に通う16歳のか弱き乙女。

何故か今、生徒指導室に呼び出しを食らってます。


…なんでーッ!?

言っておくけど、何もしてないわよ!?

心当たりなんて全然ない!

素行はちゃんとしてるし授業にも遅刻せず毎日出席してるしこないだの中間テストだってまずまずの成績だったし!

王立学院のクラス割は成績順だから、落ちたらこういった呼び出しを食らうってのも聞いたことがあるけれど、私はちょうど平均点くらいだった。

つまりクラスで真ん中の成績よ。

仮に誰かが落ちるとしても、私より先にクラスの約半数が落とされてなけりゃおかしいって理屈。

…ハッ!?

それとも、アレかしら!?

他のクラスメイトは上級貴族ばかりだから、落第させるわけにはいかない。

代わりに片田舎出身の木っ端貴族の小娘を落として辻褄を合わせようとか!?

くっ…なんて汚いのかしら、貴族社会って!

所詮実力主義なんて上辺だけの建前のみ!

実際には権力による横暴と差別と理不尽がまかり通っているわけね!

私は疑念にまみれた目で、目の前の担任教師をじっとりと睨みつけた。

ナルキス・ハーフムーン先生。

柔らかいシルバーブロンドの髪を長く伸ばした、はんなりとした美人教師。年齢不詳。ただし男。

いい意味であんまり男臭くなくて、どこか中性的な印象の人だから、美形美男子ってより美人ってつい言っちゃうけどね。

性格は温厚。てか優しい。

変な差別とかもしないし、どんな生徒にも平等に接してくれるいい先生だって思ってたのに…!

私を呼び出しておきながら、さっきからなかなか話を切り出そうとしない。

何故か生徒指導室の机にティーセットを持ち込んで、香り高い紅茶を私にも勧めてくれてるけど…

そうか、これは先生の罪悪感の為せる業ってわけね。

理不尽に落第させようとしている生徒に対して、せめてもの慰めのおもてなしってこと!

王立学院に雇われているんだから、ナルキス先生も公僕の身。

本当はこんなこと嫌だけど、上の決定に従うしかない。

だから私のことを気の毒がって、こんなおいしそうなお茶菓子まで用意して…!

…しょうがない。

先生にも立場ってものがあるんだろうし。

ここは私も腹を括りましょう。

大丈夫、分かってる。

先生を……まあ多少は恨みに思うけど、たぶん一番悪いのはもっと上の奴のはずだから。

何を言われようと、怒り出したり取り乱したりしないわ。

さあ、カモンっ!

いつでもドンときんしゃい!

っていう心意気で、ナルキス先生が口を開くのをずっと待っていた私。

せっかくの紅茶も話を聞くまではいただく気になれなくて、こうしている間にも冷めていっちゃってる。

だから、早く…!

「その、実はアリシアさんに折りいってお話が…」

よしキタ!

私は丹田のあたりに力をこめて、耐え忍ぶ構えを取った。

ところが、続けられた言葉はまったくの予想外。

「…お恥ずかしながら、先生の恋愛相談に乗ってもらえないかなぁ…って」

………。

…ハイ?

すいません、何か聞き間違えたみたいです。

もういっぺんいいですか?

ワンモアプリーズっ。

「せ…先生の、恋の悩みについて……お話、聞いてもらえないかな…?」

あ、聞き間違えじゃなかった。

でもさ。

…なにそれ。

拍子抜けのあまり脱力してだらしなくズルズルと椅子から滑り落ちていっちゃったけど、私、絶対に悪くない。




仕切り直しよ。

もう遠慮なく紅茶とお菓子をいただきながら、改めてナルキス先生のお話を伺ってみた。

…あ、これおいしー♡

ぶっちゃけ、お茶だけしてとっとと帰りたいなぁ〜…なーんて思わなくもないんだけど、

「実は先生、ずっと前から想いを寄せている方がいてね…」

…ま、そんなわけにはいかないわよね。

タダ食いするのも気が引けるから、この紅茶とお菓子の分くらいは付き合ってあげることにする。

恋バナ、嫌いじゃないしね。

にしても不思議というか納得いかないのは、なんで私に相談してきてるのかってことよ。

私はいわゆる異世界転生者だ。

こことは違う世界から、ある日突然この乙女ゲーの世界に転生してきた。

でも、元の世界でもこっちと同じ16歳だったから、年齢的なアドバンテージはない。50歳くらいで16歳に転生したなら、それまでの人生経験がものをいうこともあるかもしれないけど、私には正真正銘16年分の経験値しかない。

その上、恋愛に関しては……前世と今世合わせて、一度も彼氏のかの字もないっつーしょっぱい現状よ。

前世はともかく、今は乙女ゲーヒロインの美少女のはずなのに…

まずはそんな感じの疑問を、異世界転生のくだりは伏せてナルキス先生に聞いてみると、

「またまたそんな、謙遜しちゃって。ここ最近のアリシアさんの活躍の噂は、先生だって耳にしてるよ」

え?

それ何のこと?

本当に分からなかったので素で問い返してみたら、

「色々な人たちの縁を取り持ってあげたって聞いてるよ。ほら、ヒューゴくんとシーザーくんとか、モリスくんとグレミオくんとか、ゴーシュくんと先輩のカルロスくんのことまで!」

…あ、

ああー!

その話!?

噂になってるの!?マジ!?

この世界に転生してからこっち、私が被害を受けたホモップルの数々じゃない!

なお、断じて縁を取り持ってあげたつもりはない。

ゴーシュくんに関してはちょっとは協力したかもだけど、その他は間違いなくただの巻き込まれの不可抗力だった。

「特にカルロスくんのことは……ジオ先生も感謝してらしたよ?クラブ活動も授業もサボりがちだったのに、またちゃんと出てくるようになったって。先生がいくら指導しても効果がなかったから、本当に助かったってさ」

ジオ先生って……カルロス先輩のクラス担任だっけ。

ジオ・ラーティン先生。

優しいナルキス先生とは対極的に、鬼教師然とした厳しい先生だって聞く。上級生の担任だからあんまりよく知らないけど、ニコリともしない無愛想な様子から、たぶん評判と実像はそんなにかけ離れてはいなさそう。

それは別にいいんだけど…

なんか、ジオ先生のことを話す時のナルキス先生の表情が…

ほんのりと頬を染めて、ちょっと切なげに瞳を潤ませちゃったりなんかして。

…えーと。

もしかしてナルキス先生の好きな人って、ジオ先生だったりする?

「なんで分かったの!?」

いやナルキス先生、分かりやすすぎ(笑)

「さすがはアリシアさん…!縁結びの第一人者って噂になるだけはあるね!」

その噂については非常に不本意なのでやめてください。

あと今更ですけど、恋愛相談なんて私事で生徒指導室に呼び出すのも金輪際やめてくださいね?

私、落第しちゃったのかと思って焦りましたよ。

「ええっ?それはないよ、アリシアさんの成績は何も問題ないんだし………モリスくんやゴーシュくんじゃあるまいし」

え、その二人。

ヤバいの?

「……元々あんまり成績良くなかったんだけど、このところ特に……こないだの中間テストとか、ちょっと、ね……」

あー、ハイ。

浮かれて勉強なんて手につかなくなる出来事があったからですね。

皆まで言わなくていいです把握しました。

ナルキス先生はとっても頭の痛そうな顔をしていた。

…先生って、大変だな。




とりあえず、相談内容は分かった。

けど、ジオ先生かー…

私、本当によく知らないのよね。

というのも、この世界って前世でプレイした乙女ゲーの設定になってて、ゲームの攻略対象キャラだった人たちについては基礎データを知識として持ってるんだけど、ジオ先生はそこに含まれてないの。

ちなみにナルキス先生は攻略対象キャラだった。

ジオ先生はカルロス先輩ルートか、ナルキス先生ルートで、ほんのちょっとチラ見する程度のモブキャラとしての登場のみ。

ゆえに、どういう人なのか予備知識がなくて全然分からない。

分からないから、せっかく相談してくれたナルキス先生には悪いけど、アドバイスのしようがない。

前世チートの部分がなけりゃ、私なんて年齢=恋人いない歴の経験も浅い小娘だもん。大人のナルキス先生に何を物申せるかってのよ。

なんか期待したような目を向けられてるけど…

うーん…

ダメだ、わがんね。

考えたって無理なもんは無理よ。

そもそもジオ先生のことよく知らないのがやっぱ致命的。

ここはひとつ、まずは情報収集からね。

敵を知り己を知れば百戦危うからずってなもんで戦略の立てようも出てくるかもしれないし。

つーわけで、ナルキス先生。

ジオ先生のところに行きましょう。

「えっ、今から?」

はい。

善は急げっていうでしょう。

あとここで躊躇するなら私、別に縁を取り持つお仕事しているわけでもないし興味を失くしてもう関わり合いになる気もなくなります。

よく考えるまでもなく、またしてもメンズ同士の恋愛事情に巻き込まれてるし。

ホモップル被害は既に十分なんです。お腹いっぱいなんですよ。

「わ、わわ、分かった…!すぐ職員室に行こうっ!」

ナルキス先生は焦った様子で椅子から腰を上げた。

「この果断な行動力……やっぱりすごいなぁアリシアさんは…!相談してよかった…!」

なにやら呟いていたようだったけど、私の耳には届かなかった。




さて、職員室ナウですよ。

同じ校舎内にあるんだから移動なんてあっという間ね。

生徒指導室でお茶しながら相談に乗ってたので、もう放課後の遅い時間。そのためか、人気はほとんどなかった。

つーか、謀ったようにジオ先生一人だけよ。

こんな都合のいいことある?って疑問に思ったけど、

「私もそうだけど、ほとんどの先生は定時で上がっちゃうから……ジオ先生はこのところカルロスくんの補講のために遅くまで残ってることが多いんだ」

なるほど。

前世では教職って時間外労働とか残業とかめちゃ多いイメージだったんだけど。この世界の……少なくとも王立学院はホワイトな労働環境の職場みたいね。

しかし、そんな環境下で、カルロス先輩ひとりのために残業を辞さないとは。

ジオ先生って結構親身になって生徒の面倒見てくれるタイプ?

見た目は厳しくて怖そうなんだけどなー。

まあナルキス先生が好きになるくらいなんだから、私の知らないいいところいっぱいあるんでしょーね。

と、こうして見ていてもしょうがないわ。

失礼しまーすっ!

私は若干腰が引けてるナルキス先生を押し出すようにして、職員室の入口のところから中へと足を踏み入れた。

いざ、ジオ先生に突撃ーっ!

「おや、ナルキス先生。まだ残っていらしたのですか?」

「あっ……はい、そのっ…」

「私に、何か?」

「あうぅっ……えーと、そのっ……」

「?…用事がないのでしたら、私もそろそろ帰るところだったのですが。職員室の戸締まりはお任せしてもよろしいですか?」

「う、あ……ハイ…」

…じゃないでしょーっ!?

なにジオ先生をそのまま行かせようとしてるのよ!?

いかん、ナルシス先生って好きな人の前だとポンコツだ!

もだもだしてるだけで物の役にも立ちゃしない!

乙女ゲーだと大人の余裕っぷりを常に見せつけてくれるキャラだったのに!

この世界じゃ相手も同じ大人でしかも男だから、反応が違うってこと!?

くっ…!

仕方ない、ここは私がひとつ!

「ん?…君は、確か…」

アリシア・ヴェルブラントと申します!

「知っている。直接こうして話すのは初めてだったな。うちのクラスの生徒が世話になったようで、すまない」

いやまあ世話って程のことでもないですけど!

あっ、そうそう。ついでに聞いておこっと。

カルロス先輩って、その後どうですか?

ゴーシュくんのことがあるから、いつまでも不良ムーブなんかかましてないでちゃんとやってるのか気掛かりだったのよね。

たぶん大丈夫だとは思うけど…

「うむ。カルロスならば、もう大丈夫だ。サボっていた分の補講は必要だが、あいつは元々やる気さえあれば成績優秀な奴だからな。補講も形式的なものでしかない」

マジっすか!?

カルロス先輩ってそんな頭良かったの!?

あー、でも先輩のことだから勉強に関しても隠れて努力とかしてそうだなぁ…

「しばらく前まで素行も荒れていたが、今はすっかり落ち着いた。後輩の手を煩わせたことは情けないが…」

そっか、良かった!

じゃあまたマジックシュータークラブで大活躍してくれるわよね!

ゴーシュくんとのことも一安心、っと。

にしても、愛は偉大だなぁ。

ジオ先生は私がなんかしたおかげって評価してくれてるみたいだけど、結局のところカルロス先輩が立ち直ったのってゴーシュくんと付き合うようになったからでしょ?

「…うむ。クラブの後輩とも仲良くやっているようだ」

ところでジオ先生には好きな人がいますかっ!?

強引に質問をぶっこむ私。

だって、そうでもしないと本題に切り込めないんだもん。この際、しゃーなし。

ナルキス先生が「ちょっ…アリシアさん!?」って狼狽えてたけど。誰のためにこんな質問ぶっこんでると思ってんですか、黙って見ててください。

「………いきなり、随分と不躾だな」

それまで割と穏やかだったジオ先生の顔に、険が差した。

うわ、眉間の皺すごい…

こんな表情されると本当に怖いな、この先生。どえらい迫力と威圧感がある。

でも負けるか!

いいじゃないですか、教えてください!

私ってほら、人の恋バナにも興味津々なお年頃なんですよ!

「………バカなことを言ってないで、学生はきちんと勉学に励みなさい」

ジオ先生、ぷいっとそっぽを向いて帰り支度を始めちゃった。

むむっ、しかしこれは!

私の恋愛センサーがピコーン!と音を立てて反応したわよ!

ジオ先生みたいなタイプって、好きな人いなかったらはっきりそう言いそうじゃない。こっちの興味を失わせるために「そんなものいない」ってけんもほろろに。

つまり、いるわね!好きな人!

ゼヒとも詳細に伺いたいけど……さすがに、私じゃこれ以上は無理。

ってことで、私はすぐ横でまだもだもだしてるナルキス先生をぐいっと前方に押し出した。

あのですね、ナルキス先生にはいるんですよ。好きな人。

同僚の誼で相談に乗ってあげてくれませんか!?

「ああああああアリシアさん!?」

「…そうなのですか?」

「いえあのそのえっと………ハイ…」

「…知りませんでした」

「………ハイ…」

そりゃそーでしょ。とか内心でツッコむ私。

でも口は挟まない。

ここは大人しくモブに徹して展開を見守るのみっ!

「ナルキス先生、この後は何かご予定は?」

「えっ…」

「よろしければ、一緒に食事でもどうですか。…お話を伺いたく思います」

「え、えええええっ…」

「それとも、他の約束でも?」

「いいいいいいいえっ、特になにも!」

「それでは」

ジオ先生はスッとしたスマートな動作で立ち上がると、立派な紳士然としてナルキス先生に向かって手を差し伸べた。エスコートするための、手を。

「行きましょう」

「………ハイ…」

顔を赤くして俯きがちなナルキス先生は、完全にただの頷きボットと化していた。

そして二人は、日も暮れてこれから夜へと向かう街並みへと手を取り合って消えていったのだった…


って、もちろん私も一緒に下校したわよ。

校門のところで先生たちとは分かれて、そのまま寄宿舎に帰ったけどね。




先生たちがあの後どうなったのかは、もちろん知らない。

だけど、翌朝事件が起きた。

いつも通り、普通に登校した私。

始業のベルが鳴ったから先生が来るのをこれまたいつも通りに席について待っていたんだけど、教室のドアをガラッと開けて入ってきたのは、いつものナルキス先生じゃなかった。

私以外のクラスメイトたちも驚いてザワザワと騒ぎ出す。

「えっ、上の学年の……ジオ先生!?」

「ナルキス先生は?」

「粛に。ナルキス先生は体調不良で休むこととなった。本日は私が代理でこのクラスの教鞭を執る」

「ええーっ!?ナルキス先生大丈夫なの!?」

「お見舞いとか行った方がいい?」

「…体調不良といっても、ちょっとした腰痛だ。明日には復帰される。見舞いは必要ない」

「なーんだ、そっか。よかったー」

「でも一日鬼教師の授業かよ…」

「ううっ……ナルキス先生がいいよぅ……」

「そこ、うるさいぞ。授業を始めるからテキストを開け」

ザワつくみんなと一緒にテキストの準備を始めつつ、私はスンっとした気持ちになっていた。

…何も言うまい。

そんな気分である。

なお、ジオ先生の授業はキビキビしてて厳しいけどすごく分かりやすかった。




一日の授業が終わってから、ジオ先生がおもむろに私の席のところにやって来て、

「…世話になった」

と短く一言。

だけじゃなく、何かポンと私の机に置いていった。

こっ…これは!?

購買部で一日限定5個だけ販売してる大人気の黄金メロンパンっ!?

一度食べてみたかったけどいつも売り切れで買えなかったのよ!

ジオ先生買ってきてくれたの!?

そんで私にくれるってことよね!やったあ!

「えーっ、アリシアちゃん、鬼教師から何かもらったの!?」

「黄金メロンパンじゃん!いいなぁ…」

「でもなんで?…まさか、賄賂?」

「いやそれ普通逆だろ。なんで教師が生徒に?」

クラスで仲良くなったみんなが私のところに集まってきて、口々に言って首を傾げてたけど。

フッ…

いいのよ。

これは、正当な報酬なのよ!

だから私には当然食べる権利があるの。

いっただっきまーす!

「なんだかよく分からないけど……鬼教師からも一目置かれてるってこと…!?」

「さすがはアリシアさん…!」

「やっぱアリシアちゃんカッコいい!そこに痺れて憧れちゃう!」

黄金メロンパンを味わうことに全集中していた私は、周りからの評価がとんでもない方向に高騰してると気付くことはなかった。

…あー、おいしー♡


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