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Detectiveコンヌちゃん  作者: コンヌちゃん


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11/12

帰還

 光が、消えた。

「コンヌちゃん!」

 ときやが走り出す前に、足がもつれた。床に手をついた。立ち上がる。また走る。光があった場所に、二つの影が倒れていた。

「コンヌちゃん!」

 駆け寄る。膝をつく。コンヌの肩を抱き起こした。冷たい。

「コンヌちゃん、聞こえる?コンヌちゃん!」

 まぶたが、ゆっくりと動いた。

「…ときや、君…?」

 声が出た。ときやの胸の中で、何かが崩れた。

「良かった…」

 それだけしか言えなかった。喉が詰まって、それ以上出てこない。コンヌの顔を見る。泥だらけで、頬に傷がある。唇が乾いている。それでも——生きている。

「ときや君…泣いてる?」

 コンヌが、掠れた声で言った。

「泣いてない」

「嘘だ」

「泣いてない」

 コンヌが小さく笑った。その笑顔を見た瞬間、ときやは顔を背けた。その時、隣で低い呻き声がした。コンヌの顔が変わった。

「父さん…!」

 コンヌがときやの腕から離れ、隣に倒れた男性へ這うように向かう。ときやも後を追った。男性は仰向けに倒れていた。服はボロボロだ。だが——その顔は、古鷹から見せてもらった写真の顔だった。

「父さん」

 コンヌが父の頬に触れた。ときやは素早く脈を確認した。弱いが、ある。呼吸も、浅いが続いている。10年間、次元の狭間で身体を酷使し続けた。どれほどの消耗か。だが——生きている。まぶたが、開いた。

「ん…コンヌ…か…」

「父さん!」

 コンヌが抱きついた。その身体は震えていた。

「帰ってこれたの…二人で封印したの。完全に」

 亥原は、しばらく何も言わなかった。ただ、娘の背中に腕を回した。その腕が、小刻みに震えている。

「よくやった…」

 絞り出すような声だった。

「本当に、よくやった…コンヌ…」

「父さん…父さん…!」

 コンヌが泣いている。声を上げて泣いている。十年分の涙が、一度に溢れているような泣き方だった。

 ときやは二人から少し離れて、立っていた。周囲では、正気を取り戻した人々が、座り込んだり、互いに抱き合ったりしていた。何が起きたのか分からない顔をしている。当然だ。気づいたら地下空洞にいて、見知らぬ人間が倒れているのだから。

 ときやは立ち上がり、皆に向かって叫んだ。

「大丈夫です。儀式は止まりました。皆さんは助かりました。今、救助隊が案内します。落ち着いて、その場にいてください」

 安堵の声が、波のように広がった。泣き出す人もいる。へたり込む人もいる。

 その時、遠くから足音が響いた。複数の、重い足音。そして——

「亥原…!」

 低く、震えた声。

 ときやが振り返った。

 古鷹が、そこに立っていた。

 包帯を巻いた身体で、杖をつきながら。顔には打撲の痕が残り、息が荒い。

 だが——その目は、真っ直ぐに亥原を見つめていた。

「古鷹…」

 亥原が、掠れた声で呟いた。

 古鷹は、一歩、また一歩と近づいた。足を引きずりながら。痛みを堪えながら。

 美月が後ろから支えようとしたが、古鷹は首を振った。

「いい…自分で…行く」

 古鷹は、亥原の前まで来た。

 そして——膝をついた。

 二人は、しばらく何も言わなかった。

 ただ、見つめ合っていた。

「…すまない」

 亥原が先に口を開いた。

「10年も…待たせた…」

「馬鹿野郎」

 古鷹の声が震えた。

「謝るな…お前は…」

 古鷹の目から、涙が溢れた。

「お前は…10年間…一人で…世界を守り続けたんだ…」

「古鷹…」

「10年間…ずっと待ってた…」

 古鷹の声が、完全に崩れた。

「ずっと…信じてた…お前は生きてるって…いつか帰ってくるって…」

 古鷹の肩が、大きく震えた。

「だから…謝るな…」

「…ありがとう」

 亥原が、古鷹の肩に手を置いた。

「待っていてくれて…ありがとう…」

 古鷹は何も言えなかった。ただ、涙を流し続けた。

 美月も、その光景を見て、目を赤くしていた。

「父さん…」

 美月が、古鷹の肩に手を置いた。

「美月…」

 古鷹が娘を見た。

「見たか…亥原が…帰ってきた…」

「ええ…」

 美月も涙声になった。

「おかえりなさい、亥原さん」

「ああ…ただいま」

 亥原が微笑んだ。

 コンヌは、父と古鷹の様子を見て、また涙が溢れた。

「古鷹さん…」

 コンヌが声をかけた。

 古鷹が顔を上げた。

「コンヌ君…いや…」

 古鷹は涙を拭った。

「コンヌ探偵…よくやってくれた」

「古鷹さんこそ…」

 コンヌも泣きながら笑った。

「ありがとうございました」

 古鷹は立ち上がろうとして、よろめいた。

 美月とときやが、両側から支えた。

「無理しないでください」

 ときやが言った。

「大丈夫だ…これくらい…」

 古鷹は亥原を見た。

「10年分の…喜びに比べれば…」

 亥原も、コンヌに支えられながら立ち上がった。

 二人は向かい合った。

「亥原…」

「古鷹…」

 二人は、同時に右手を差し出した。

 握手。

 10年ぶりの、相棒同士の握手。

「お疲れ様」

 古鷹が言った。

「お疲れ様」

 亥原も答えた。

 その瞬間、周囲にいた機動隊員たち、救助隊員たち、そして正気を取り戻した人々が、拍手を始めた。

 パチパチパチ…

 拍手が、地下空洞に響き渡った。

 コンヌは、父と古鷹の姿を見て、涙が止まらなかった。

 ときやも、その光景を見て、静かに微笑んでいた。

 美月は、父の背中を優しく叩いた。

「よく頑張ったね、父さん」

「ああ…」

 古鷹は娘を見た。

「お前もだ…美月…」

 そして、古鷹は亥原に向き直った。

「亥原…」

「ん?」

「今夜…飲もう」

 古鷹が笑った。

「10年分…語り合おう」

「ああ」

 亥原も笑った。

「そうだな…10年分…積もる話がある」

「じゃあ、焼肉で」

 コンヌが明るく言った。

「焼肉?」

 亥原が娘を見た。

「ときや君との約束なの。飲み放題付き」

 コンヌが笑った。

「それはいい」

 古鷹が頷いた。

「全員で行こう。美月も、ときや君も」

「はい!」

 美月とときやが同時に答えた。

 機動隊員たちが動き始めた。洗脳されていた人々への誘導、救急隊との連絡。忙しく声が飛び交う。

 その喧騒の中で、四人は静かに立っていた。

 亥原とコンヌ。

 古鷹と美月。

 そして、ときや。

 10年の時を超えて、再び集まった仲間たち。

 コンヌが、父に支えられながら、ときやを見た。何も言わなかった。ただ、笑った。

 ときやも笑った。それで十分だった。

 古鷹が、亥原の肩を叩いた。

「帰ろう」

「ああ」

 亥原が頷いた。

 五人は、ゆっくりと階段へ向かった。

 地上へ。

 光の世界へ。

 長い戦いが、終わった。

 そして、新しい日々が始まろうとしていた。

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