表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第1話

平和。その言葉は、私にとって「退屈」と同義だった。

四方を穏やかな山々に囲まれたこの小国で、私は愛される可愛いお姫様、ルナとして、蝶よ花よと育てられた。けれど、私の魂が求めていたのは、温かな紅茶ではなく、焼き付くような火薬の匂いと、己の限界を叩き壊す快感だった。


「お父様、お母様。今日でおままごとは終わりよ」


私はお気に入りのベレー帽を深く被り直し、漆黒の軍服に袖を通した。胸元には大きなリボンのタイ。可愛らしさは、強者の余裕として残しておいてあげる。


クーデターは、私一人で十分だった。

王城の重い扉を蹴破り、愕然とする両親の前に立った時、私の瞳にはかつての甘さは微塵もなかった。


「ルナ!? その格好は……何をしているんだ!」

「夢を叶えに来たの。『最強の独裁者』になるっていう、素敵な夢をね」


近衛兵たちが一斉に銃口を向ける。けれど、私は笑った。

この瞬間のために、私は誰にも知られず、この身体を鋼のように鍛え上げてきたのだから。


平和ボケした軍部を武力でねじ伏せ、抵抗する将校たちを自らの拳で黙らせた後、独裁者となった私の最初の命令は、「全護衛の解任」だった。

私は宣言した。


> 「この国の秩序は、私一人で維持する。警備も、国境防衛も、反乱分子の鎮圧も――すべて、私という『力』だけで完結させてみせる」


それは狂気の沙汰だった。

昼は執務室で冷酷な法を敷き、夜はたった一人で国境を駆ける。

押し寄せる反乱軍の群れに、私はたった一振り、あるいは一挺の得物を持って飛び込む。


一週間が過ぎる頃、私の体は悲鳴を上げていた。

軍服の袖は破れ、肩口からは血が滲んでいる。

可愛かったはずの顔には煤がこびりつき、何度も刃を交えた指先は震え、爪の間には鉄の錆びた匂いが染み付いている。


「はぁ……はぁ……、まだ……まだ足りないわ……」


泥濘の中で膝をつき、呼吸を整える。

視界が霞むほどの疲労。筋肉が千切れるような激痛。

けれど、これこそが私の望んだ「酷使」。

自分の命を、存在を、極限まで削り取って国を支配する全能感。


背後から迫る刺客の気配に、私は口角を上げた。

ボロボロになったリボンをなびかせ、私は再び立ち上がる。


「見てなさい。このボロボロの姿こそが、この国を導く唯一の神の姿よ」


私は、民衆の恐怖と畏怖を一身に浴びる、世界で一番美しく、そして最も残酷な「孤独な独裁者」として、今日も戦火の真っ只中へ独り歩みを進める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ