迷惑な学校行事
同クラスになってからというもの、学校が終わると揃って基地へ向かうのが日課になっていた。
別に約束をした訳でも取り決めをした訳でもない。各自勝手に好きな事をやるをモットーとしているため、来る来ないは自由である。
今までは別々のクラスで、たまに会う程度だった。だが、3人揃うと、どうしても話が弾んで止まらなくなる。
その日も金玉商店街で菓子類とジュースを買い、基地でまったりとしていた。
「おい三次」
「何だよ」
「近々交流会が行われるらしいぞ」
「ああ、クラス対抗だろ」
「俺、イヤなんだよなぁ~」
克己の言う交流会とは、クラス対抗スポーツ大会である。
学年が変わるタイミングで行われ、スポーツを通して他クラスとの交流を深める目的で行われる。
俺と友則は運動神経がいい。身軽な俺はジャンプ系を得意としている。跳び箱は8段では物足りなく、上で側転からの宙返りで魅了する。バク転、バク宙もお手物である。
友則は筋肉の付き方が常人を遥かに超えており、走るや投げるといった単純作業に特化している。
足の速さは校内一で、陸上部のエースを簡単にぶち抜く。スタートダッシュからトップスピードに乗るまでが異常に速い。野生のチーターと互角に争えるくらいだ。たぶん、獲物を取らないと生死に関わるからだろう。
また、肩の筋肉が発達していて遠投が凄い。校庭の隅に落ちていたボールを拾って野球部に投げ返したところ、弧を描くことなく、キャッチャーミットにストレートで収まった。ボールを受け取ったキャッチャーは指を骨折したらしい。
今日こそ獲物を仕留めねば、お腹を空かせてしまうからだろう。
類まれなる身体能力を持っているが、それを遥かに凌駕するバカなのでルールを覚えられない。誠に残念である。
そんな俺らとは真逆に、克己はスポーツ全般が苦手だった。
野球は女投げで、明後日の方へ放り投げる。サッカーは顔面ヘディングを得意とする。見るからに足の遅そうなデブに100走で負けた時は、三日間学校へ来なかった。
腕や足が木の棒のように細く、運動には不向きな体型である。
「やりたくないんだよなぁ~」
「全員参加だから仕方ねぇだろ」
「そんな優しさ要らないんだよ」
「じゃあ、休むのか?」
「う~ん。そうするかなぁ~」
ハタ迷惑な気持ちは分かる。しかもこの大会の正式名称は「早起きスポーツ大会」である。
朝の6時に学校へ集合し、ウォーミングアップもなく唐突に大会が始まる。早朝からスポーツをしたい奴などいない。1秒でも長く寝ていたいと思ってる。
さらに、他のクラスと交流を深めた所で誰得になるのかよく分からない。教室が違えば話をすることもなく、廊下やトイレですれ違っても「おう」と声をかける程度で、友達とは言い難い。
誰も望んでいないのに何故こんな企画するのか。学校側は何がしたいのだろう。
「去年の野球大会は面白かったな」
「去年?」
「お前と友則が乱闘しただろう」
「……」
去年の大会は野球だった。3人共に別クラスだったため、俺のクラスは友則のクラスと対戦することになった。
俺は問答無用でピッチャーをやらされた。
基本、勝っても負けてもどうでもいいと思っている。学校主体のイベントなど興味もへったくれもない。眠い目を擦りながら適当に投げていた。
友則がバッターボックスに入った時、手が滑って奴の脇腹へボールを直撃させてしまった。微動だにせず一塁へ歩いて行ったが、その顔は不満だらけだった。
次の打席も太腿に決まった。一塁から「テメェー。ワザとだろ」というクレームが来た。俺はニコッと笑い「すまんすまん」と手を合わせてやり過ごした。
そして運命の第3打席。思いっきり投げたボールが、奴の側頭部へ鮮やかに入った。驚くほど綺麗に決まった。
「いい加減にしやがれ」
「悪りぃ悪りぃ」
「なんか恨みでもあんのかぁぁーー」
バットを投げ捨てると、獣の表情で襲い掛かってきた。向こうが来るならこちらも応戦する。グローブをマウンドに叩きつけ、取っ組み合いのケンカを始めた。
「なんで俺ばっかり狙うんだ」
「手が滑っただけで偶然だ」
「三度も偶然なんてありえねぇだろ」
「テメェも黙ってないで避けるくらいしろや!」
「寝起きで頭が回んねぇんだよ」
「それはこっちも同じだ」
「貴様の根性を叩き直す」
「上等だ。やれるモンならやってみやがれ!」
慌てて駆けつけた教師らに止められ事無きを得たが、そのまま続けていたら、早起き格闘技大会になる所だった。
大体にして、早朝からスポーツをやる事自体が間違っている。寝起きの頭でボールを全力で投げてみ。どこに投げてるか分からなくなるから。
そして俺らは大会を強制退去させられた。
その後、基地へ戻ってそれぞれのプライベート時間を過ごしたので、結果的に良かったと言える。
「なあ三次。今回もその手で行くか」
「そりゃ無理だよ」
「何でだよ」
「だって、俺とお前は同じクラスじゃねぇか」
「確かにそうだったな」
「おい克己、今年の種目は何なんだ?」
克己の話によると、今年の早起きスポーツ大会はバスケだという。
想像するだけで気が滅入る。バスケは肉弾戦でガンガンに体を当てて来る。特にシュート態勢に入った時のディフェンダーは、ツキノワグマのように襲い掛かってくる。酸素不足の頭でそんなことをやられたら、脳震盪を起こして正常な頭脳に戻れなくなる。
学校側は、未来ある若者を鉄格子の病院へ送り込むつもりなのだろうか。
「という訳で、今回俺はパスな」
克己は、参加拒否を宣言して帰っていった。
早起き肉弾戦。危険な匂いがするのは俺だけか?




