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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
5時間目

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34/34

休み時間 運命の席替え

 俺らのバカさ加減がクラス中に響き渡った頃、待望の席替えが行われた。

 それまでは名簿順で廊下側から「あいうえお」に並んでいた。


 席替えというのは妙にドキドキする。仲の良い友達と近くになれるか。気になる子が隣に来たらどうしてくれようか。人生で最もテンションの上がる賭けである。

 放課後のHRで巾着袋に収められた番号札を大騒ぎしながら引いていく。ここが運命の分かれ道だ。

 親友と隣同士になったら今後の学園生活が楽しくなる。万が一、気になる娘の隣に座れたら毎日がパラダイスである。彼女の横顔を見てデロ~ンとし、家へ帰ってから再びデロ~ンとする。次の日もその次の日も穴が開くほど眺めてしまう。そしていつしか恋に悩み愛に苦しむ。

 人生をも左右する席替えは、命を懸けるイベントでもある。

 神頼みでクジに手を伸ばす者。歓喜の声を上げる者。落胆する者から無言のまま立ち去る者まで。それぞれの思惑がスクランブル交差点のように入り乱れつつ、順に席が決まっていった。


 俺ら三人はその光景をしれ~っと眺めていた。

 既に大馬鹿者と認定されている俺らは、隣同士になると騒ぎ立てて勉学に支障をきたす。とされ、満場一致で定位置を与えられた。

 克己は窓側の最前列。友則は廊下側の最後列。俺は窓側の最後列だった。

 誰が考えたか知らないが、ベストに計算された位置関係である。これならば会話も叶わず、おふざけも出来ない。当然、好きな子の隣を自力で引き当てる。という夢も叶わない。

 まあ、別にクラスに好きな子がいる訳でもなく、告白しても「近くに寄るとバカ菌がうつる」という噂が蔓延しているため、恋に花が咲くことはない。

 友則は爆睡で、克己は何やらイラストを描いている。俺は校庭の隅にそびえ立つ新緑の桜の木を眺めていた。



「どうも」


 隣の席から女子の声がした。席替え発表が終わったのだろう。

 甘い吐息のような挨拶を聞いて我が家が騒めく。運命はある日突然やって来る。期待と股間を膨らませて声の主を見た。


「なんだ、小池かよ」

「また隣同士になったね」

「そう……だな」


 彼女の名は小池翔子。小池医院の一人娘である。

 頭脳明晰、容姿端麗。黒髪ポニーテールが似合う我が校の誉。細面のスラっと体系でスタイルも良し。胸については……お互いのため。

 校内でも1、2位を争う頭の良さで、それに加えて美人。噂が噂を呼び、他クラスから彼女見たさに訪れる人が後を絶たない。漫画に登場する非の打ちどころがない女子だった。

 実は彼女も幼稚園時代からの幼馴染だった。自宅も徒歩2分という距離にある。大通りに面してそびえ立つ小池医院と、隣にある豪邸が本宅である。一方、小池ん家のすぐ裏にある小鳥の巣が俺の自宅だった。

 ガキの時分に何度か遊びに行った事があるが、意味不明なくらい大きな自室に3人で寝れそうなベッドが置いてあった。ヒラヒラのレースが垂れ下がっていて、いわゆるお姫様ベッドだった。

 机の上は整理整頓されており、本棚には難しそうな書物がズラリと並んでいた。時折、窓から入ってくる風に流れていい匂いが漂ってくる。見るからに頭の良い子の部屋であった。

 片隅にプロレス雑誌とエロ本がミルフィーユ状態で積み重ねられ、ゴミ箱からスルメイカの匂いを放っている部屋とは大違いである。


 偶然なのか必然なのか。小池とは幼稚園から現在に至るまで同クラスだった。

 友則とは幼稚園までは一緒だったが、小学校入学時に別クラスになった。小4で復活を果たし、中1で亡き者になった。

 小池は、いつ見ても側に居る。しかも現在の状態と一緒で必ず俺の右側に座っている。何度席替えをしても奴が居座る。オラウータンと同等の知能を持つ俺の記憶を辿っても、離れたのはクラス替えの最初だけ。それ以降は一度もないだろう。


「なんか、お前の横顔って見飽きたな」

「それはこっちのセリフ」

「耳の後ろのホクロまで見飽きたわ」

「え? そんな所にホクロがあるの?」

「小さいけどな」

「いつから?」

「う~ん。小5くらいかな」

「ふ~ん」


 全てを知り尽くした二人の会話は、まるで人生を共にした老夫婦のようだった。

 学校でもクラスでも人気者の小池。彼女の隣に座ると男子の恨めしい視線がビシバシ突き刺さるが、クジ引きなので文句は言えない。


「あ~あ。たまにはいい女の隣に座りたいなぁ~」

「それは夢のまた夢ね」

「何故に故?」

「あんたの隣に座るとバカ菌がうつるから」

「じゃまかしいわ!」

「ただでさえ悪影響なのに」

「て、てめぇー」

「私じゃなきゃ無理ね」

「だったら、お前もバカになっちまうぞ」

「私があんたに影響されると思う?」

「分かんねぇぞぉ~」

「大丈夫。毎日うがいと手洗いを欠かさないから」

「俺は悪性のウィルスか!」

「ハハハ」


 笑った後に鼻の頭を搔くクセまで知っている。

 何気ない会話だが、彼女が男子とここまで親しく話をする事は滅多にない。大体は用件のみで端的に処理される。


 ただ、この横顔を見るのもあと1年足らずだろう。彼女は将来医者を目指しているらしく、卒業後は進学校へ行く。将来どころか明日も考えていない俺は、底辺高校で更なるバカを発揮するだろう。

 あと1年……そう考えると、胸がチクっと痛かったりする。





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