第3-2話 凄腕交渉人と愛娘、モンスター退治してスキルアップ
「よし、この宝箱には”薬草”と銀貨10枚だな」
「ねえねえねえ! アレン、こっちには~?」
「そちらはアタリだ。 ”炎の剣”を入れるぞ」
「はーい、了解です~!」
ダンジョンの中にミアの陽気な声が響く。
ここはハイロッシ地方南部にある公営のアトムダンジョン。
俺たちは”宝箱設置人”本来の業務をこなしていた。
「……よし、こんなものか。 これで設置作業はおしまいだな。 お疲れ様、ミア」
「アレンもお疲れ様!」
「うぅ、おなかすいたよぅ~、アレン~早くお好みクレープ食べに行こ!」
くぅ……可愛くお腹を鳴らしながらミアが訴えてくる。
「ふふ……お前最近もっと食いしん坊になったんじゃないか?」
「……太るぞ?」
「うっ! ミア運動してるもん! ブーデーじゃないもん!」
腕をぶんぶん振りながら可愛く抗議してくるミア。
もちろん冗談だ……ミアは今日もぜい肉とは無縁の美しいプロポーションを保っている。
さすがは俺の愛娘である。
先日のシーマ神殿での出来事。
なんの変哲もない”能力解放の腕輪”が、光と共に変形し、ミアの左腕に装備された事件。
なにか後から影響が出るかもと数日観察していたが、どうやら杞憂だったようだ。
そろそろギルドから依頼されている”ビバゴーン”退治に向かうか……。
「ところでミア」
「ん? なに、アレン?」
「ハイロッシのお好みクレープを、”ハイロッシ焼”と呼んじゃだめだぞ。 万一その呼び方をすれば……」
「すれば……?」
「……特殊稼業の皆様に海に沈められる」
「……ぶるぶる……ミア気を付けます!」
俺たちは楽しくじゃれ合いながら、お好みクレープ屋さんに向かうのだった。
*** ***
タイーシャダンジョンは風光明媚な渓谷の奥にある。
俺たちは川沿いの街道を歩きながら、ダンジョンへ向かっていた。
「ん~、海もいいけど、やっぱり山の中が落ち着くよぉ~!」
漂う木々の香りと川のせせらぎに、ミアも気持ちよさそうだ。
「ミアはやっぱり山間部の出身なのか? ラーナか? それともワッカか?」
ラーナ、ワッカ共に王都の南東方向にある緑豊かな山間部に位置する地方である。
「えっと……正直ラーナ地方にある孤児院に来るまでのことは、あまり覚えてないんだけど……こんな感じで緑豊かな場所だった気がするね!」
もしかして、なにかつらいことがあって記憶を封印しているのだろうか……酷なことを聞いてしまったかもしれない。
思わず俺はミアの緑髪をもしゃもしゃと撫でまわす。
「わっ!? どーしたのアレンいきなり?」
「いや……過去はどうあれ、ミア。 お前は今や俺の最愛の家族だ。 変なことを聞いてすまねぇな」
「? んっふふ~。 アレン、そんなこと気にしなくていいのに~」
「ミア、いまが最高に幸せだよ!!」
にぱっと笑う天使の姿に、俺は思わずうれし涙をこぼすのだった。
*** ***
「そろそろダンジョンの客が襲われたという現場か……ミア、警戒を頼む!」
「うん、任せてアレン!」
ミアは獣人族だけあり、視覚や嗅覚は人間よりはるかに鋭い。
このような待ち伏せを警戒する場合、頼りになるパートナーだ。
「…………」
「…………」
息をひそめ、身構える俺たちの耳に届くのはお互いの息遣いと渓流のせせらぎだけ。
「!! アレン! 上だっ!」
!!
なぜか俺にも感じることが出来た。
小高い丘になっている広葉樹の林……その中から明確な殺気が吹き付けてくる。
ウオオオオンッ!
立木をなぎ倒しながら現れた”ビバゴーン”は、醜悪な豚の頭にゴリラのようなたくましい身体を持つ魔物だった。
ちっ、オークタイプか……昆虫や植物タイプではないので、俺のスキルが役に立つかもしれん……俺は奴から距離を取りつつ、スキルを使う。
[メシメシメシメシ! ニンゲン! 特に柔らかいオンナ!]
スキルの発動により伝わってきたのは、貪欲な食欲。
そういえば聞いたことがある。
ニンゲンの味を覚えたオークは、積極的に人を襲うようになるらしい。
どうやら交渉は無駄なようだ……さて、どうして倒したもんか……俺は魔法の袋に入っているマジックアイテムの中から、攻撃に使えそうなものをリストアップする。
どくんっ……
その瞬間、俺の心臓が脈打ち、白昼夢のようなイメージが目の前に現れる。
……”ビバゴーン”が大きく跳躍し、俺の背後に下がっているミアに襲い掛かり、その鋭い牙をやわらかな彼女の肌に突き立てる……
くっ、やらせるかっ!
なぜかそのイメージがこれから起こる事のような気がした俺は、背後に跳躍するとミアを抱きとめ、横に転がる!
「きゃう!」
ズドォ!
その瞬間、”ビバゴーン”の巨体が、たった今までミアが立っていた場所に落ちてくる。
まさか必殺の一撃をかわされると思ってなかったのだろう……”ビバゴーン”は目を剥いて驚いている。
「ふええ、アレン……すごい」
呆然とミアがつぶやくが、俺も同じ気持ちだ……先ほどの感じ……奴が”欲しいモノ”だけではなく”しようとしている事”まで見えたのか……まさか?
「っっっ!! アレン、アブないっ!」
はっ!
俺が一瞬呆然とした隙に、”ビバゴーン”が襲い掛かってきた。
丸太のような腕が俺たちを捉える……間に合わないと判断した俺は、腕に抱いていたミアを突き飛ばし、かろうじてガードの姿勢を取る。
ドンッ……
最初は衝撃だけが襲った……一瞬後に、俺は自分が宙を舞っていることを自覚する……まずいっ、せめて受け身を……
ザザザザッ!
俺はかろうじて受け身を取ったが、脳震盪を起こしたのか、意識がもうろうとしている……やべぇ……ここで俺が倒れてしまえば、ミアは……。
案の定、ゲスな笑みを浮かべた”ビバゴーン”が、ミアを……
「……」
「…………このっ」
「…………このモンスターめ、アレンを、いじめるナアアアアァァァ!!」
ズドオンッ!
その瞬間、ミアの腕輪に埋め込まれた宝玉が輝きを放つと、魔力の奔流が爆発し、生まれた爆炎が、”ビバゴーン”を跡形もなく消し飛ばす!
……バカな! ”フレア・バースト”だとっ!?
俺も文献の中でしか見たことのないSランク爆炎魔法が目の前で発動していた。
…………
……サアッ……
先ほどまでの喧騒はどこへやら。
半径10メートル以上のクレーターを残して、森は静寂を取り戻していた。
「……ミア、お前……」
呆然とした俺は、ミアに声を掛けようと一歩を踏み出すが……
……ぐらり
左手に装備した腕輪の宝玉から光が消えた瞬間、ミアの身体がぐらりと揺れる。
「……ミアっ!?」
間一髪抱き留めたが、意識を失っているようで、呼吸も荒い。
くっ……急いで街に戻らないと!
俺は”転移の羽根”を使い、クーレの街に飛んだ!
飯ウマグルメもストーリーも加速します。
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