第6-3話 凄腕交渉人の迷宮攻略と新たなる?仲間(上)
グルルルルル……
俺たちが対峙しているのは、見るモノに本能的な恐怖を覚えさせる漆黒の毛並みと炎の尻尾を持つ魔獣ヘルハウンド。
地獄の門番との異名を持つ、SSクラスモンスターである。
くそ、こんな最上位モンスターがなぜこんな場所に……!
冷や汗すら蒸発する熱気の中で、突破口を見つけるため、覚悟を決めた俺は”先読みスキル”を発動させる……!
*** ***
テークダンジョン最奥に繋がった古代の遺跡……そこにあった宝玉のせいでお互いの精神が入れ替わってしまった俺とミア。
俺たちは元に戻るためのきっかけを探すべく、テークダンジョンに隣接する古代遺跡の迷宮に潜っていた。
「……ところでミア、俺たち身体が入れ替わってるが、お互いの”スキル”はどうなってんだろうな?」
”迷宮”を進みながら、ふと今朝気になったことを思い出す。
昨日は入れ替わり騒動であわてていて、試す余裕がなかったのだ。
俺は、軽く爆炎魔法をイメージし、手のひらを前に向けて詠唱する。
ぼふっ!
とたんに、小さな炎が目の前で爆ぜる。
おお、Sランク魔法はこの身体では使えないようだが、簡単な魔法なら使えるんだな……気持ちいい……。
「あはは、アレン、楽しそうだね! 攻撃魔法を使った瞬間って、なにか気持ちいいんだよね……」
ミアがうっとりしている。
次に”先読みスキル”も試してみるか……
[アレンの事、だいすきだいすきっ! ミア、もう一生アレンのそばにいるっ!]
!?
スキルを使った瞬間、目の前のミアからだけじゃなく、いまは自分の身体となっている”ミア”の奥底からも感情があふれてくる。
ミア……こんなにも俺のことを好きでいてくれるのか……あふれてくる強烈な愛情に目頭が熱くなり、俺の頭はオーバーヒート寸前になった。
「うううう……ぷしゅ~」
目の前で、ミアが頭から湯気を吹いている。
俺の身体で”先読みスキル”を試してみたようだ。
ふ……俺が普段どれだけミアの事を好きで、常に想っているか、感じてくれたのだろう。
「ん、んんっ……くらくらするし、少し休憩していくか」
「さ、さんせー……はふぅ」
俺たちふたりは、顔のほてりが収まるまでその場で休憩していくのだった。
*** ***
「そろそろ最下層か……?」
数時間後、俺たちは古代遺跡の最下層まで到達していた。
最初から魔物の気配はしているが、まるで何かの意思に従っているかのようにほとんど姿を現さないのは、いまの俺たちの状況を考えると非常に助かる。
だが、なにやら誘いこまれているような感じもするので、不安要素でもある。
あの後、互いのスキルを試してみたのだが、特に攻撃魔法についてはふたりとも中途半端であり、強力なモンスターが出現したら逃げるしかない。
「ふわわ、すごっ」
最奥の大広間、そこに広がる光景にミアが感嘆の声を上げる。
通路の奥が円形の広間になっており、先端に大きな宝玉が付いた柱で囲まれている中央部分に、せりあがる形で丸い台座がある。
古代の祭壇のようだな……それぞれの柱の前には、石板が置かれ、びっしりと古代文字が書かれている。
ふむ……何かの魔法装置のようにも見えるな。
現在の位置的に、昨日俺とミアが入れ替わってしまった現場の近くのはず……昨日の宝玉も、この大きな魔法装置の一部の可能性がある。
荷物の中に古代文字の辞書があったっけな……俺が魔法収納袋を漁っていると……。
「アレン! なにか……来るよっ!」
”先読みスキル”を一部使える状態のミアが、なにかただならぬ気配を感じたようだ。
く、俺も感じる……膨大な魔力とプレッシャー……何者かがここに出現しようとしている!?
もわあああああっ
ブアッ!
「くっ」
「きゃあっ」
俺たちの目の前に黒い霧が現れたかと思うと、赤い炎が噴き出し、霧を吹き払う。
そこにいたのは、漆黒の毛並みと炎の尻尾を持ち、地獄の門番と称される、SSクラスモンスター:ヘルハウンドだった……!
*** ***
そんなわけで俺は魔獣ヘルハウンドに対し、”先読みスキル”を使おうとしていた。
Sクラス以上のモンスターの中には、高い知能を持ち、人語を理解するモノもいると聞く。
上手く行けば”交渉”が出来るかもしれない……一縷の望みをかけ、”スキル”を使った俺に聞こえてきたのは……。
「我の名はポーチボルト・フォン・アーヴィンストームブリンガー侯爵……地獄の門番をりすとら……こほん……条件が合わずに辞めてきた者……だわん」
「……遺跡の守護者という事にしているが……正直な話、自分探しの途中であるわん!」
「おお、人間たちよ……なにか我に枷を与えてくれぬか?」
「なぜか人間たちは我の姿を見ると逃げるのだわん!」
……やけに人間臭い思考をするSSクラスモンスターの嘆き節だった。




