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第5-5話 【勇者の華麗なる転落サイド】勇者の冒険の終わり……今更お前が出てきてもな

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「はあっ……はあっ……はあっ……」


「はは、なんだ……全部アイツのせいじゃないか」


「アレンがオレの栄光の邪魔をしているんだ……アイツさえ殺せば、オレは……!」



 ざああああああああ



 降り注ぐ雨の中、元勇者クラレンスはふらふらとおぼつかない足取りで草原を歩く。


 彼が手に持つ傷だらけの聖剣アスカロン……よく見ると粗末な板を打ち付けて補修してあり、往年の輝きはない。



 ばさっ……ころん



 落ちた道具袋から転がりでた”マテリアルメダル”……もはや彼にとっては()()()()()()()()”それ”をクラレンスは拾い上げ、不気味に笑う。



「ふふふふ……奴はラーナに向かった……必ずここを通るはずだ……そこを仕留めれば……」



 ざああああああああ



 正気を失ったクラレンスの独り言は、雨音にかき消された。



 ***  ***


 ラーナ地方での依頼を終えた俺たち。


 ”形式上”準備された物資運搬の受領証を持ち、報告のために王都へ向かっていた。



 ミアの孤児院に治安局大臣ガリオン……そして勇者パーティにいるはずのエイダ……か。


 どうやら事態は思っていたより複雑みたいだ。


 そして、俺のスキルが進化しつつある。


 正直、俺の”先読みスキル”は、孤児院での一件のように、”相手の心”をあそこまで読めるものではなかった。


 進化したスキルに助けられている面はあるが、この”腕輪”の影響……俺はロバ車の上で楽しげにはしゃぐミアを見やる。


 状況からして、”王国治安局”にも俺たちの情報は回っているに違いない……ミアのためにも気を付けなくてはいけないが……



 あのですね、大金稼いで愛娘とのんびりセカンドライフを楽しむ俺の優雅な生活を邪魔しねぇでほしいんですがね……俺はこっそりため息をつく。



 ……そしてまた、俺の”平穏な生活”を邪魔するヤツがひとり……



「……おいクラレンス、嫉妬と憎悪の感情がむき出しだぜ? みっともない」



 がさり


「よ、よくわかったな……役立たずのくせに……!」


 街道わきの草むらから出てきたのは、ボロボロの姿になった俺の元雇い主、勇者クラレンスだった。


 ……ってなんでこいつこんなにボロボロなんだ? 聖剣は欠けているし……ほかのメンバーはどうした?


「アレン……貴様のせいでオレはすべてを失った……」


「街の愚民どもに嫌われたのも、「メダル」が取れずに迷宮探索に失敗したのも、セレストが死んだのも……全部貴様が悪い……」


「貴様を殺して俺はもう一度勇者になる!」



「はあぁ?」



 コイツ、何を言ってやがる?


 俺を追放したのはお前の身勝手だし、街の人たちに嫌われたのも、おおかた交渉もせずに傍若無人にふるまっていたからだろう。


 ……そういえばこいつ、”勇者襲撃犯”として手配書が回ってたな……。


「はん! お前がなにをやらかしたか知りたくもねぇが、全部てめぇがやったことだろうが? 人のせいにするとか、勇者クラレンス様らしくないな?」


 俺はわざとらしくやつを挑発する。 敵対的な相手との交渉の基本だ。 これで相手の出方を見る。



「きっさまああああああ!!」

「能無しのゴクツブシのくせにオレを愚弄するのか…………ぶっ殺してやる!!」



 おいおい、いきなり全ギレかよ……先読み交渉スキルを使うまでもねぇ……。


「アレン、ミアも手伝うよっ!」


 襲い掛かってくるクラレンスに、アブないと感じたのか腰を浮かせかけたミアを俺は右手で制する。


 これは、俺の問題だ。


 それに……


 クラレンスの動きは鈍く、聖剣アスカロンの輝きも無い……理由はわからんが、勇者の力がふるえないようだ。


 俺は改めて”先読みスキル”を発動させる。



 緩慢な太刀筋、次に仕掛けてくる攻撃……すべてを知覚できる。


 俺は苦労もなくやつの攻撃をかわし続けた。



 バキン!



 地面に叩きつけられた聖剣アスカロンが根元から折れる。


「はあっ……はあっ……はあっ……なぜ、当たらない……何の力もない無能風情に」


 まだ自分の置かれた状況を理解できていないらしい……哀れなヤツだ。


 俺は奴を無視し、”転移の羽根”を使い王都に戻ろうとしたのだが……。



「そうか……そこの小汚い獣人のガキか……はは、こざかしい妨害魔法でも使わせているのか……劣等獣人族らしい……獣人趣味のおま……ぶげえええええっっ!?」



 奴の言葉を聞いた瞬間、俺は全力でクラレンスを殴りつけていた!


 俺の事を悪く言うならともかく……俺の愛娘を……ミアの事を悪く言うのは絶対に許せねえ!!



 バキッ! ドカッ! グシャッ!



 ()()()()()()()()()()()()()まで明確に見える俺は、的確にクラレンスを殴りつけ、奴を追い詰めていく……このまま……



「やめてアレン!」


 ひしっ



 その時、ロバ車から飛び降りて来たミアが俺の腕に縋りつく。


「アレン、やめて……アレンはいい人だから、こんな奴の血で手を汚すのはミア、イヤだよ……」


 ……そうだな……ミアの手のひらの温かさに、俺は我に返る。


 コイツは官憲に突き出し、反省させるのがいいだろう。


 俺は冷たい目でクラレンスを見下ろす。



「ぐぅ……ごほっ……無能の劣等種族共が……がはっ……このオレを誰だと」



 まったく反省の色を見せないクラレンスに心底呆れた俺は、奴を縄で縛りつけ、”転移の羽根”で王都に飛ぶと、さっさと指名手配犯として官憲に引き渡すのだった。



 ***  ***



 王都治安局第四留置場……大罪人として逮捕されたクラレンスは、地下牢の中で力なくうなだれていた。


 このままだと良くて流刑……最悪の場合は死罪も免れないだろう……


 輝ける勇者クラレンス様がなんで……


 ブツブツ虚空を見て呟くクラレンスの前に、ひとりの”黒ずくめ”が姿を現す。


 食事か……?

 顔を上げたクラレンスが見たのは……


 短く切りそろえた紫色の髪に、他人に興味なさげな冷たい視線。

 すらりとした体躯の少女……先日クラレンスの勇者の力を奪い、彼を見捨てたヒーラーの少女、エイダだった。



「!? エイダ!? お前……なんでここに……?」


「返せっ! オレの力を返せえええ!!」



 必死の形相でエイダの脚に縋りつくクラレンスを見て、エイダは「ぷぷっ」と酷薄に噴き出す。


 げしっ……どん!


「……がっ」


 エイダはまとわり付いてきたクラレンスを蹴り飛ばすと、ブーツで踏みつけ、サドっ気たっぷりにぐりぐりと力を入れる。


「ははっ♪ 情けないよね、変態クラレンスくんは……」


 にたありと笑う少女の瞳は悪魔の輝きを放っている。


「や、やめろっ……そうじゃない……返せ、返すんだ……」


「ふひ、ごめんね~。 勇者の力は私が()()()()()()()()()()、もうキミは”()()()()”なんだ……無能な不要物なんだよ」



「ざんねん! 勇者クラレンスの冒険はここで終わってしまった!」



「ま、待てっ!」



 ぱしゅん……!



 陽気なエイダの声とともに、チリ一つ残さず消え去るクラレンス……。


「……んっ……くふうん……おいし♪」


 彼の最期の”何か”を吸収したのか、妖艶に身体をくねらせるエイダ。



「……さてと……ガリオンの奴に”脱落勇者”の始末を頼まれてるから、適当に似た死体を準備しておかないとね……くふ……()()()()()()()()()……もっと”勇者たち”には踊ってもらうよ」



 監獄の窓からのぞく月明かりに照らされたエイダの影が、一瞬”なにか”の形を取った。


ここまで読んで頂いてありがとうございます。

ざまぁのサイドストーリーは、相手を変えて続きます。

お楽しみに。


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