第4-5話 【勇者の華麗なる転落サイド】勇者様、落ちぶれて何もかも奪われる
「くそっ……くそっ……」
薄汚れたあばら家の2階、粗末なベッドの上で一組の男女が重なり合っていた。
「…………ぁ」
一脚しかない椅子に座った一人の女性が、声にならない息を漏らしている。
ここはとある街のスラム街の片隅……
指名手配犯となった元勇者クラレンス一行は、逃亡生活を送っていた。
行為の後、元勇者クラレンスを、すさまじい虚脱感が襲う。
「くふ……まあまあだったよクラレンス……」
少女とは思えない妖艶な笑みを浮かべ、クラレンスから身体を離したヒーラーの少女、エイダはさっと服を身に着けると、いまだ虚空を見つめる女魔法使いセレストに向き直る。
「うふふ、クラレンスから貰った”力”をアナタにあげるね……」
エイダはセレストに触れると……彼女の言葉を借りれば”復活の儀”なるものを開始する。
「くっ……」
その怪しい光景から目を逸らすと、クラレンスは頭を抱えた。
どうしてこうなったのか……
Sランク迷宮である”魔巣迷宮”をクリアするため、非合法組織に依頼し、他の勇者パーティを襲撃させ大量の”マテリアルメダル”を奪った。
そこまでは良かった。
だが、迷宮の大ボスにはクラレンスの勇者剣技は通用せず、倒すために女魔法使いセレストが犠牲になった……その後の記憶はあいまいだが、迷宮から脱出すると、なぜか彼は”勇者襲撃犯”として、指名手配されていた。
馬鹿な……非合法組織には莫大な金を積み、完璧な隠ぺい工作を依頼していたはずだ。
現に、組織の構成員を捕まえて締め上げたが、コイツらから情報が漏れた形跡はなかった。
指名手配犯として追われる身になったクラレンスは、魔法を使いすぎ人格が崩壊したセレストを連れ、彼をサポートしてくれるヒーラーの少女エイダと各地のスラムを転々としていた……。
最近はストレスからなのか、先ほどの様にエイダと情事に及ぶことも増えた……彼女はとても良くしてくれるが……くそ、最近身体のダルさが取れない。
まともな食事を取れていないからだろうか……。
ともかく、逃亡生活継続のためには日銭を稼がなくては……クラレンスは変装すると、街の外に向かった。
ドシュッ!
クラレンスの聖剣アスカロンが、ホブゴブリンを捉える。
低級な魔物相手のはずだが、なぜか腕が重い。
彼は魔物を狩り、ドロップアイテムを売ることでわずかな金銭を得ていた……大物は足が付くので倒せないのだ……。
ビシュッ……!
その時、茂みに隠れていたのだろう……彼らのボス、ハイ・ゴブリンが打った矢がクラレンスに刺さる。
ホブゴブリンよりは強いが、勇者スキルを持つクラレンスの敵ではない。
「うっ……くっ、この雑魚がぁぁぁ」
彼は激高し、ハイ・ゴブリンに切りかかるのだが……。
ザクッ!
「う、うそだろ?」
当然のように一刀両断に出来たはずの……ハイ・ゴブリンに対し、わずかな手傷しか負わせることが出来なかった。
「”勇者”の力が、弱くなっている……?」
あの後、苦労してハイ・ゴブリンを仕留めたが、魔物の反撃で傷だらけになったクラレンスは草原に立ち尽くし、呆然と呟く。
慌てて道具袋を開けるが、”マテリアルメダル”はまだ残っている……いやそもそもハイ・ゴブリンなど、メダルのパワーを使わなくても苦労する相手ではないはずだ……
「くふ……クラレンス……そろそろ打ち止めかな……」
その時、背後の影から溶け出すようにして、エイダが現れる。
「な!? エイダ? おまえ、どうして……なにを、言っているんだ?」
「ん~? 勇者の力を頂く契約があったからアナタに協力してたけど……そろそろ取れる力が尽きそうなんだもん♪」
「じゃあ、最後の力、もらうね!」
ずぶり……
「ぐっ……!? ぐあっ!!」
この場にふさわしくない陽気な声を出し、満面の笑みを浮かべたと思うと、エイダはその指をクラレンスの下腹部に突き刺した。
ズル……じゅるり
「ぐがっ……え、エイダ……やめろ……うわわあああ!!」
自分の身体のナカをかき回され、苦痛と快楽が交互に襲ってくる感覚。
「えいっ♪」
何か大事なものが抜き取られたような感覚が彼を襲う。
それを最後にクラレンスは意識を手放した。
「ふう、ごちそうさま……コイツ相手はいったんこれでOKかな……じゃあバイバイ「元」勇者くん! こんなことろで寝てたら死ぬかもよ?」
シュワン!
エイダはぺろりと血に染まった指を舐め、軽い別れの言葉をクラレンスに投げかけると、そのままどこかへ消えてしまった。
……数時間後、運よく無事に目覚めたクラレンスは、自分から”勇者の力”が完全に失われたことに気づき、その場で絶叫するのだった。




