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第4-4話 凄腕交渉人、フォーカグルメを堪能する

 

「はっはっは!! さあアンタたち、好きなだけ食って飲んでくれ!」


 いかつい炭鉱夫のおっさんが豪快に笑う。



 ここは村の集会所。


 中央の大テーブルには色とりどりの山海の珍味が並ぶ。


 救助した炭鉱夫たちから、ぜひお礼がしたいと申し出があり、こうして生還記念の大宴会に招待されたというわけだ。


「ふおお……いいニオイ……なにこれ?」


 目の前の平鍋から漂ってくる香りに、よだれを垂らしながら鼻をひくひくさせるミア。

 今日も臨戦態勢ばっちりだ。



 黄色掛かった透明のスープに浮かぶ、沢山の牛モツ。

 たっぷりのキャベツと白い豆腐が彩りを添える。

 何よりうずたかく積まれたニラと、その頂点にちょこんと乗せられた赤唐辛子の粉が目に鮮やかだ。



「おお、これは珍しいな……フォーカ地方の郷土料理である……」


「へへ、あんちゃん詳しーじゃねーか、これが俺たちのソウルフード、”モツ鍋”よう!!」


「も、もつ鍋っ!? 何その魅惑わーどっ……!」


 筋骨隆々の炭鉱夫が、ばちーんとウィンクしながら俺の言葉を引き継ぐ。



「おっ! かわいいお嬢ちゃん、分かってるねぇ! まずはこうして強火でひと煮立ち……」


「ふおおお!!」


「にんにくを加え、味がしみ込む豆腐は最後に入れて、野菜がくたくたになるまでじっくりと……」


「ふおおおおおお!!」


「最後にゴマを振りかけて完成だ……そのままでも、ポン酢でも好きな食べ方で行きな!」


「ふおおおおおおおおお!!」


 鍋が出来上がっていくにつれ、いちいち歓声を上げるミアがかわいい。


 炭鉱夫のおっさんもニコニコだ。



 それでは、俺も失礼して……

 ぷるぷるの牛モツを、ニラに包んで口に運ぶ。


 モツからにじみ出てくるうま味の塊の脂を、すっきりとした切れ味のあるフォーカの地酒で流し込む!


 ……くぅ……俺はこのために34年間生きてきたと言っても過言ではない!!



「じんわり、にくじゅう……ぷるぷるコラーゲン……味がしみ込んだお豆腐も……ん~~~♪ 美味しいよぉ!!」


 目の前では牛モツを噛みしめ、出汁色に染まった豆腐をはふはふと頬張ったミアがとろけそうな顔をしている。


 ”極上のメシ顔”


 とでも題名を付けて美術館に飾れそうな光景に、こちらも思わず笑顔になる。



「がっはっはっ! そんなにうまそうに食べてくれれりゃあ、ごちそうしがいがあるってもんだい!」


「なあお前ら!!」


「おうよ!」「おわかりならいくらでもあるぞミアちゃん!」「ウチの娘もこれくらいうまそうに食ってくれりゃあね」「おう、兄ちゃんいける口だな! 飲むぞ飲むぞ」



 他の炭鉱夫たちも上機嫌であり、ミアはすっかりオジサンたちのアイドルになったようだった。


 さーて、俺もリミッター解除して楽しみますかね!



 ***  ***


「ふい~、幸せだよぉ~」


 たっぷりともつ鍋をお腹に詰め込んだミアが、お腹をさすりながらまったりとしている。



「くくっ……ミアよ……お前ともあろうものが、もう満足したのではあるまいな……まだ鍋にスープが残っているではないかっ!」


「ア、アレンっ! いくらミアのお腹が底なしと言っても……もうゾースイをを食べる余地はっ!?」


「ふっ……貴様は”これ”を見てもまだそんなことが言えるかな!」


 俺はごそごそと魔法収納袋を探ると、()()()()()を取り出す。


 突然始まった漫才に、なんだなんだと炭鉱夫たちの注目が集まる。



「これは! 腹がいっぱいの時にもするすると啜れる、東方より伝わりし”シメの王者”……”細麺”だっ!!」


 ばば~ん!


 俺が袋から取り出したのは、魔法ジップロックで鮮度を保った”麺”!


 小麦を練って作られた、東方伝来の食べ物である……この国ではまだ珍しいが、王都の輸入食材店で見つけたものだ。


「”シメの王者”……”細麺”……なにか物凄い霊圧を感じるよっ」


「……霊圧ってなんだ?」


 周囲から冷静なツッコミが入るが、俺たちはもう止まらない!


「くくく……ミア、貴様は平鍋に残った少量のスープで何をするつもりだと思っているだろうが……甘いな! ここに”追いスープ”があるのだ!」


「”追いスープ”!? さすがアレン、ミアの思考が読まれているよ!!」


「……いや、最初からボトルで置いてあったじゃねーか」


 炭鉱夫のおっさんのツッコミを無視し、俺は”追いスープ”を平鍋にぶちまける。


「くんくん……この香りは……豚!?」


「くっ……流石だなミア! コイツも東方より伝わりし幻のスープ……”トンコーツ”!」


「と、とんこーつ……」


 ミアが呆然と呟く。


 俺は、細麺をさっと湯がくと、器に盛り、かえしとしてソイソースを加えたスープをたっぷりと掛ける。


 最後に残った牛モツと刻みネギを乗せ、完成だ。



「これが東方のソウルフード、”らあめん”だっ!」


「ら、らあめん……」


 もはや正常な思考力を無くしたミアは、震える手でスプ―ンとフォークを持つと、麺をズルっとひと啜り、そのままスプ―ンですくったスープをこくりと口に含む。



 ぱたり……



「美味しい……美味しすぎるよアレン……見た目こってりなのに、むしろあっさりとしたスープの甘味……それでいてトンコーツのガツンとした脂が細麺に絡みついて……もうミア、ミア……」


「メシの顔を極めちゃうよぉ……」



 勝った……!



 ミアを完全ノックアウトした俺は、勝利の凱歌上げるのだった。


「何の勝負だよ……」


 炭鉱夫のおっさんのツッコミは、ミアの”らあめん”を啜りまくる音にかき消されたのだった。



 その後、俺たちのグルメ漫才にドン引きした炭鉱夫たちにも”らあめん”をふるまいノックアウト、


 ”らあめん”はフォーカ地方の新名物として王国を席捲することになるのだが、それはまた別のお話。


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