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第4-3話 凄腕交渉人、炭鉱の危機を救う

 

「アレンおにいちゃん……ミア、ミア……だいすきなの……」



 ちゃぷん……



 酔っぱらっているのか、ミアの声に熱っぽい響きがこもる。


 だれもいない露天風呂、タオルを外して湯船に入ってきたミアは一糸まとわぬ姿。


 獣人族特有の少し筋肉質な均整の取れた肉体……すらりとした長い手足……それでいて胸とお尻はとても柔らかそうだ。


 コイツ、意外にスタイル良いんだよな……はっ! いかんいかん! 最愛の娘に”オンナ”を感じるなんて!



 そもそもなんでこうなったんだ!


 温泉宿のオバちゃんがミアに甘酒を勧めなければ……いくらアルコールがほとんど入っていないと言っても……ミアは底なしなんだぞ!


 数リットルは飲んだだろうか……その結果がこれである。


 くっ、このままだとイケナイ展開になってしまう……別にミアと血が繋がっているわけではないので、生物的には問題ないが、倫理的には大いに問題がある!


 なんとかミアを説得して……くっ、どんな厄介な住民に対しても”タンス漁り”を交渉してきたこの俺が押されているだと……!?


 ”スキル”でミアの”したいこと”を覗いて対処しようかとも思ったが……見てしまうと()()()()()()()戻れなくなりそうなので自重した。



「アレン……ミアの事、ぎゅっとして……」



 ああ、ミアの手が俺の肩にかかる……その時。



 ズドオオオオオンンッ!


 グラグラッ!



「きゃ、きゃっ!」


 巨大な爆発音と揺れが露天風呂を襲った。



 ……正直助かったと思ったのは秘密だ。



 ***  ***


「炭鉱で落盤事故?」


 先ほどの揺れで、コケて目を回したミアを”毒消し草”で治療して正気に戻し、街の広場に出てきた俺たちを迎えた村長の口から、先ほどの爆発音の正体が告げられる。


「は、はい。 この村には大きな炭鉱があるのですが、その最下層で爆発があったと報告が……」


「数十人の炭鉱夫が閉じ込められたとの情報もあり、救助に行こうと思ったのですが……」


「運悪く坑道が魔物の巣とつながってしまい、最下層に近づけないのです」


 一気に現状を説明してくれた村長は困り顔だ。



「旅のお方……どうやらダンジョンギルドの構成員と見込んでお願いします」


「閉じ込められた炭鉱夫の救助を手伝っていただけないでしょうか?」



 なるほど……地下……坑道での事故とあれば、専門家であるダンジョンギルドに支援を頼みたいというわけか……。


 だがなぁ……俺の担当は宝箱設置……公営ダンジョンの製作や、テストプレイなどダンジョン本体に関する業務は別の部署が担当しているのだ。


 思わず俺がいかにも()()()()()()をしようと思っていたところ……。



「……ねえアレン! 助けてあげようよ! ……地下深くに閉じ込められているなんて……かわいそうだよ!」


 ふんすっ!

 と、やけに真剣な表情で救助を主張するミア。


 ……この子が()()()()()ここまで主張するとか、めずらしいな……なにか落盤事故に良くない思い出でもあるんだろうか?



 まあ、そのあたりはいつか話してくれるだろう。


 それより、ここで渋ったら教育に良くないな!

 引き受けることにするか。


「……わかった、村長。 なんとかやってみよう。 坑道の地図はあるか?」


「おお、ありがとうございます!」



 村長から色々な情報をもらいつつ、俺は捜索の準備を進めるのだった。



 ***  ***


「おもったより大きく崩れてるな……」


 発破用の爆薬の暴発だろうか?


 坑道の奥に行くにつれ、壁が崩れている場所が多い。

 それに……



「ミア、右の横穴だ!」


「うん、わかった! ”フレア・レーザー”!」


 ギャアアアア……!


 横穴から”魔物が出てくるイメージ”を感じた俺がミアに指示を飛ばす。


 間髪入れず放たれた爆炎魔法が、横穴から出現しようとしていたボブコブリンを焼き尽くす。



 崩れた坑道が魔物の巣とつながってしまったのだろう……たびたび魔物と遭遇する。


 炭鉱夫たちが無事だといいが。


「えへへ、やっぱりアレンの”先読み”、すごいねっ! ミア、魔物の気配なんてわからなかったよ」


「……ふ、まあな! このアレン様のスキルは最強なのだ!」



 ……ミアの称賛に冗談めかして言ったが……おかしい。


 俺のスキルはもともと、”目に入った生物が欲している物を先読みする”事しか出来なかったはず。


 先日のハイロッシ地方での”ビバゴーン”との戦いでの出来事のように……”相手の行動が見える”なんて。


 これではまるで未来予測じゃないか……まさかスキルが進化してるってぇのか?


 ”勇者様”じゃあるまいし……。



「ねえアレン、そろそろ一番奥みたい……って……」


 ミアの声に、思考の海から我に返る俺。


「う、これはヒドイな……」


 俺たちの前に目を現したのは、天井が完全に崩落し、うずたかく瓦礫が積もった坑道の姿だった。



「……村長から貰った地図では、この奥に大きな広場があり、通常時はそこに大勢の炭鉱夫がいるらしいが……」


 俺は試しにスキルを使ってみる。


 ……くそ、明かりが切れたぞ……誰か助けてくれ……女神様、お助けを……酸素が薄くなっている? 誰か、空気を……


 膨大な岩石を通した向こう側から、わずかに”願望”の声が聞こえる……この奥に炭鉱夫たちが閉じ込められているのは間違いないようだが……。


「しかし……この岩をどかすのは……ダンジョン掘削の専門職でもないと無理だぞ」


 どう見ても俺たちのスキルや装備じゃ無理だ。


 しかも、向こう側では空気が薄くなっているようだ……いまから戻ってダンジョンギルドに連絡、専門家を派遣してもらったとしても数日……とても間に合わないな。



「……ふう、残念だが……ミア?」


「……やだ……」


 元交渉人として現状を吟味し、冷静な判断を下した俺。


 ためらいがちにミアに声を掛けるが……なにやら彼女の様子がおかしい。


「……やだやだやだ……」

「……やだやだやだ……」


「……パパとママが閉じ込められて帰ってこないんだ……そんなのイヤだよぉ!」



 ドンッ!



 ミアが叫んだ瞬間、膨大な魔法力が放出され、左腕に装備された腕輪の宝玉が黄金に輝く……これは、光の魔法力だと!?



 ……その瞬間、俺の脳裏に”ミアが放った閃光魔法が、崩れた岩盤ごと炭鉱夫たちを飲み込む”光景が浮かんだ。


 これは……”未来予測”?



 くっ……まずい! ミアにそんな重荷を背負わせるわけには……!


 間に合えっ!


 ミアの極大閃光魔法が発動する直前、俺は背後からミアに飛び掛かり、閃光の軌道を逸らす。



 ビイイイィィイィンッ!



 わずかに斜め上に放たれた閃光魔法は、炭鉱夫たちがいる空間の天井に穴をあけると、地上まで一直線に貫くのだった。



 ***  ***


 ……その後、地上まで到達した斜めの穴……ミアの閃光魔法が開けた穴だ……をつかって、炭鉱夫たちは無事救助された。


 村長からは大変感謝され、金一封までもらったのだが……。



「んっ……あれ、ここ……」


 魔力の使い過ぎで倒れたミアにマジックポーションを処方、栄養剤の点滴もしてやり、俺たちの魔法コテージのベッドに寝かせていたのだが……。


 ようやく目を覚ましてくれたようだ。


「よかった……気分はどうだ、ミア?」


「アレン……ごめんなさい、ミア……よく覚えてないの」


 ふむ……ミアは閃光魔法を使ったことを覚えていないようだ……彼女のトラウマらしきあの叫び……いまはそっとしといてやるのがいいだろう。


「ねえアレン? 炭鉱夫さんは?」


「ああ。 みんな無事だ……俺たちはよくやったぞ」


「ふああ、よかった~……うう、安心したらお腹すいたよぉ」


「ふふ……そういうと思って、ハンバーグ焼いといたぞ! 特大だ!」


「うおおおお!? ホント!? やっぱりアレンっていいひとだね!」


 ハンバーグと聞いてテンションマックスになり、ベッドから飛び起きたミアの頭を優しくなでる。


 スキルとか魔法とかいろいろ気になることはあるが、このぬくもりは本物だ。



 ……守ってやらねばな。



 俺は決意も新たにし、ミアのために特大ハンバーグの生産作業に戻るのだった。


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