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眠り剣士  作者: 守 秀斗
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第八話:真実を明かされる俺

 翌日は、久々の休日。

 マリアとデートだ。

 なにげなく村を散歩。

 手をつなぐ。


 ああ、こういうのに憧れていたんだ。

 なんて幸せだ。

 いまだにうまくしゃべれないけど

 夜も立たないし。


 村の広場で大勢の人が集まっている。

 今日は村の祭りらしい。

 村の娘さんたちが着飾って踊っている。

 やあ、綺麗だなあと思って眺めていると、マリアが突然、俺の手を引っ張って広場から俺を他の場所へ連れて行く。


 今まで見たことのないような目つきで俺をにらむ。

 俺がきょどっていると、

「あなた、うそつきね」

「な、なんのこと」

「他の女を見てたじゃない」

 へ?

「私だけを見るって言ったじゃないの」


 そんなこと言ったって、世の中の半分は女性だ。

 勝手に視界に入ってくるぞ。

 そんなことを考えていたら、

 マリアが号泣し始めた。

「約束を破った。私は裏切られた」と泣きわめく。

 宿屋に連れて帰った。


 宿屋に戻っても俺にずっと抱きついたままだ。

 これじゃあ、何も出来ない。

 しかし、俺も別れたくない。

 

 今日の仕事は、また、ゴブリン退治。

 徒歩で行くことにした。

 俺の前をスヴェトラーナが歩いている。

 すると、マリアが、

「スヴェトラーナを見ていたでしょ」とまた俺をにらむ。

「み、見てないよ」ときょどってしまう俺。

 あんな性悪女、大嫌いだよ。


 今回は、三十匹もいるそうだ。

「さて、マリア、お願いするよ」といつもようにボリスが声をかけた。

 マリアは最初から俺に抱きついている。

 俺の胸に顔をうずめて深呼吸。

 その後、延々と濃厚なキスをしてくる。

 いつまで経ってもやめない。

 ボリスが咳払いをした。


 やっと、唇を離す。

 唇に唾液の糸がひいている。

 マリアが悪魔的な目つきで俺を見た後、俺の耳元で囁いた。

「私を捨てたら、あなたを殺すわ」

 顔はなにやら淫らな顔をしている。

 今まで天使だったのが悪魔みたいに思えて、俺は恐怖を感じた。

 マリアが例の呪文を唱える。

 俺は眠りに落ちた。


 気が付くと、俺はいつものように横になっておらず、立ったままだった。

 目の前にボリスがいた。

 必死の形相で俺の両腕を押さえている。

 スヴェトラーナは俺の脚にしがみついている。

 マリアが俺の額から手を離した。

「目が覚めたか」とボリスがおそるおそる腕の力を弱めていく。


 何が起きたんだろう。

「ど、どうした」と言うと、

「お前がマリアを殺そうとしたんだよ」

「え! え!」と俺は仰天した。

 どうやら、眠りに落ちた途端、剣を抜いてマリアに襲いかかったらしい。

 すんでのところで、ボリスとスヴェトラーナが俺を押さえこんで、マリアがすぐに魔法を解いたようだ。

 

「とりあえず、ゴブリン退治は俺たちにまかせて、お前たちは宿屋に戻ってろ。それからアントン、お前は絶対眠るなよ!」とボリスは俺たちを先に帰らせた。

 帰る途中、マリアは泣いている。

「私を殺そうとした。つまり、私を愛していないのね」

「そ、そんなことない」


 実際、俺はマリアを愛している。

 大好きだ。

 なのになぜ。

 しかし、よく考えたら、好き嫌いで剣を振るっていたのなら、兄貴たちをとっくに血祭にあげていただろう。

 どうなっているのか、俺は。


 宿屋に戻っても、マリアは泣いている。

「いっそ、あなたになら殺されてもいいわ」

「な、何を言いだす」

「愛する人に愛されるがために殺される、ロマンチックだわ」

 マリアは、なんとなく自己陶酔しているような気もした。


 兄貴とスヴェトラーナがすぐに帰ってくる。

「ゴ、ゴブリンは」と聞くと、

「一匹だけきて、俺たちを見たらさっさと逃げちゃったよ。午後にまた行くことにした」

 本当かなあ。

 自分たちが逃げたんじゃないのか。


「何でお前はマリアを殺そうとしたんだろうか」

「わ、わからない」

 確かに、

『私を捨てたら、あなたを殺すわ』と言われたけど。

 それくらいで殺しにかかるかな。

「敵とか味方、または良い悪いじゃなくて、単純にお前の邪魔になる奴、または怖がらせる奴を斬ってたんじゃないか」とボリスが言った。


「私は邪魔者なの」とマリアがまた泣きだす。

「そ、そんなことない」

「で、どうするんだ。お前たち、これから」とボリスが何となく憂鬱そうに言った。

「お、俺たちは別れたくない」

「けど、眠ったら殺しちゃうだろ」

「いいんです、殺されても。究極の愛です」

「何言ってんだよ」とボリスが呆れた顔をする。


 少し沈黙したあと、

「仕方が無い。本当のことを言おう」とボリスが話し始めた。

 本当のこととは何だろう。


 どうも、俺は子供の頃から、気が弱く、何をやっても全然だめで、家に引きこもっていたらしい。

 ただ、家の中でチャンバラごっこをやると、結構強かったらしい。

 ボリスは、俺には剣士としての素質があると思ったようだ。


 両親が早死にして、親代わりだった兄のボリスが心配して、何とかしようと魔法使いのところへ、俺を無理矢理連れてった。

 ほとんど全財産払って、魔法をかけてもらったそうだ。

 俺が外でも強い剣士になるように。

 その代わり過去の記憶が曖昧になると言われた。


 しかし、実際には眠っているときに強いだけ。

 その魔法使いが言うには、あんまりお前の弟は気が弱くて眠っている時にしか強くならないと言われたそうだ。

 その時ボリスは、魔法使いが俺に魔法をかけるのに失敗したんじゃないかと疑ったようだが、魔法のことなんて全然知らないので、反論できなかったらしい。

 それで、起きている時にも強くなるにはどうするんだとその魔法使いに聞くと、俺に対してつらくあたれと言われた。

 精神的に強くなるためだそうだ。


「今まで意地悪してすまなかったな。謝るよ。お前を強くするために、わざとつらくあたれって言われたんだ。だから、お前にひどいことしたり虐めたりしたんだよ」

「私もボリスから頼まれて虐めてたの。ごめんなさい」とスヴェトラーナからも謝られた。

 本当かよ?

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