第十話:決定的なセリフを言われる俺
俺は、ここ数日、宿屋のベッドで、ただぐったりと横になっている。
あの後、ボリスはすぐにマリアをクビにした。
しかし、マリアはしつこくつきまとっているようだ。
ストーカーだな。
ボリスもスヴェトラーナも手を焼いているようだ。
マリアは、俺のことなんて完全無視。
ゴミでもみるような目つき。
このクソ女!
しかし気の弱い俺は何も出来ない。
仕事は兄貴たちがやっている。
俺はベッドで横になっているだけ。
それでも、ちゃんと報酬の分け前をくれる。
いい人たちだ。
俺は宿屋の部屋でひきこもり。
俺は今や眠っている時もきょどっている、ただの気の弱い男になってしまった。
マリアが憎い。
しかし、あの幸福感が忘れられないのも確かだ。
今や、廃人だ。
ある日、部屋に兄貴とスヴェトラーナがやって来た。
「首都メスト市の冒険者ギルド本部に行って来る」
「な、何かあったんですか」
「どうもあの魔法使いサギーシィのことだが、おかしいんだよなあ。世界を冒険してまわったっていうけど、村の冒険者ギルドに聞いたら、そんな奴知らないって言われたんだ」
「お、大昔の話だからじゃない?」
「だから、本部に行って確かめてくるよ」
俺は部屋のベッドで眠っていた。
当然、ただの気の弱い男としてだが。
隣の部屋の扉をドンドンと叩く音で目が覚めた。
同様に、ただの気の弱い男としてだが。
「ボリスさん、マリアです! ここを開けて下さい! あなたのことを死ぬほど愛しているんです!」
マリアだ!
俺は、兄貴たちが外出中であることを伝えるため、廊下に出た。
「マ、マリア」と声をかけるが、俺を冷たく一目みただけで無視しやがった。
そのまま、扉を壊れるかのようにガンガン叩いている。
「ボリスさん、開けて下さい! でないと私はここで死にます!」
正直、さっさと死ねよと思ったが、絶対に死ぬ気はないだろう。
段々声が大きくなり、扉をこわしそうな勢いで叩いたり、足で蹴ったりしはじめた。
「お、おい、他の部屋に、め、迷惑」と何とかマリアを止めようとしたが、
「もしかして、あんたが隠しているのね」と今度は俺の部屋に突入する。
部屋中をひっくり返して、わめきちらすマリア。
「なんで、私の愛を信じてくれないの!」と絶叫。
誰が信じるかよ。
「も、もうやめろ」とマリアを部屋から追い出そうとして、腕を掴んだ。
その時、
「さわらないでよ、この昼も夜も役立たずな男!」とマリアが俺を罵倒した。
……決定的なセリフだ。
マリアはさっさと俺の部屋を出て行った。
もう終わりだ。
自殺だ。
自殺しよう。
とぼとぼと村の雑貨屋に行く。
ロープを買った。
部屋に戻る。
天井を見る。
何もない。
壁を見る。
ランプの置台があった。
けっこう頑丈そうだ。
椅子に登って、そこにロープを引っ掛ける。
首を突っ込む。
深呼吸する。
俺は椅子を蹴とばした。




