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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
49/59

第四十五話 彼の考え方

遅くなってすみませんでした。


最近読んでなかったにじファンの方を読み出したら、止まらなくなって……今更NARUTOに嵌まりました。

漫画はペインを倒したあたりで読まなくなったのに、何故か。

銀英伝、本書は読んでない(続編のお嬢様の話は読んだ事があります)のに、読みまくってます。読み応えがある良作多いんで。


愛着のある話なので、キチンと書く気はあります。

まだ載せてない裏設定も沢山あるので、出来ればそれも書ききりたい。


今回長めです。

「自己治癒力を一時的に上げ、周囲の命素マナを魔力転換・吸収させて目に見える分の傷は消したが……内部の傷までは分からん。イーシャ。まだ痛むところはあるか?」


 僅かに首を傾げ、カタストロフが口を開いた。

 脱力して床に座り込んだイーシャに目線を合わせる形で、片膝をついている。

 彼女の額に突きつけた左手の人差し指は、未だ触れたままだ。

 傷を治してくれた事はありがたいものの、エーリスいわく接触恐怖症なのに大丈夫なのだろうか。

 海竜王リヴァイアサンの治療の時もカタストロフは手で触れていた事から、治癒呪は対象に接触する必要があるようである。


「んー……身体が少し重いだけで、特に傷むところは無いかな」


 イーシャは傷が綺麗さっぱり消え失せた指で、頬と口端に触れながら自分の状態を吟味した。

 本当にこれといって、痛みを発する場所は無い。


「――そうか。ならいい」


 イーシャの額から指を離し、カタストロフが立ち上がる。

 素っ気ないが、エーリスに対する応対ものとは格段に柔らかい雰囲気だ。

 本当に彼女が嫌いなんだ。

 イーシャはしみじみ実感した。


「ねぇ、クー。フィアセレス様を置いてきたの、さっきみたいな事になるかもしれないって予想してたから?」

「その通りだが?」


 カタストロフは落とした『蒼の閃』を屈みこんで拾い上げた。


「わざわざ、お前の方に術で呼び出しをかけてたんだ。何かあると予想しない方が変だろ。ルビエラから、エーリスがこの場所に封じられていると聞いていたし、あいつは他の光の民アルヴよりだいぶマシだが、自分達以外の種族を無意識に格下だと見ている。不快になる可能性が高いんだ。特に必要性が無いのなら、連れて来ない方が良い」


 確かに。

 イーシャはエーリスの様子を思い出し、納得した。

 彼女は、カタストロフが弱者に甘いと言ったが、甘いというより優しいのだ。

 当たり前といった様子からして、本人は自分が優しい人間と思ってなさそうである。


 イーシャは床に手をついて、ゆっくり立ち上がった。

 手足を振ったりして、身体機能に異常がないか、状態を確認する。


「……あの氷の中に居る女性ひとがエーリスさん、なのよね?」


 これといって異常無し。

 そう判断を下すと、イーシャは八芒星の魔法陣の中心に置かれた氷塊に目をやった。

 

 氷の中に閉じ込められた光り輝くような美女は、銀髪である事と似たような体格を除き、イーシャに似ている要素は無い。

 どういう術式なのかさっぱり分からないが、氷の中、先程まで開かれていた瞳の色だって全く違う。

 起きぬけとはいえ、間違えられた事自体が不思議になるくらいだ。


「私に全然似てないじゃない」

 

 今まで気付かなかったが、カタストロフは弱視なのだろうか。

 イーシャがそう思うくらいに似てない。


「そっくりだとは言った覚えが無い。だが全然、と言い切るほど似てないわけでもないだろ」

「いやいや。本当に全然似てないわよ。ほら、良く見て」

「……なんでエーリスのツラなんか、じっくり観察しなきゃならん」


 真剣に嫌そうな様子で、うんざりとしているのを隠さずにカタストロフが吐き捨てた。


 エーリスの行った彼への裏切り行為がどんなものかは知らないが、酷い言い方だ。

 彼女が本当にカタストロフを深く深く愛している事が、一時的に身体を乗っ取られた弊害へいがいで実感としてイーシャには伝わっていたため、余計にそう感じる。


 カタストロフはまだ、先刻暴露された事実の衝撃ショックが抜けてないのかもしれない。

 知らぬ間に一児の父親になっていた――しかも行為自体が合意じゃない――のだ。見てとれる表面からは全く分からなくても、そうである可能性は高いだろう。


「友人だったのよね? そこまで嫌悪するほど許せないの? やり方はどうあれ、彼女は貴方を想っているみたいなのに」


 エーリスは、カタストロフに対して強い影響力を持っている。

 彼女に言われた事をいつまでも覚えていたり、普段読みにくい感情をあらわにして拒絶したりするのが良い証拠だ。

 エ―リスがカタストロフにとって、どうでもいい知人状態レベルの人間関係だった場合、ここまで感情的に反応はしないだろう。


「――はぁぁ!? 友人? あいつとぉ!?」


 カタストロフが心底嫌そうな声を漏らし、眉間に深い皺を刻んだ。


「え? 違うの? 信頼してたんでしょ?」


 普段のカタストロフは寛大というか、無関心というか――常に平静を保ち、感情をあらわにする性分ではない。

 過去の壮絶な経験から、感情自体が麻痺し、周囲への警戒から表情を動かすのが稀になり、並大抵の事では動じなくなったのだろう。

 

 しかも、エーリスは彼がもともと被害にあっていた光の民アルヴだ。

 友人で無かったら裏切り行為を働かれても、やっぱりそうか――で終わらせそうである。

 怒るという事は、ある程度信頼していたという証。


「……確かに、信頼はしていたな。あいつが差し出した飲み物を、薬物が混ざってないか疑いもせず飲むくらいは」


 カタストロフは自嘲するかのように、苦々しい笑みを口元に浮かべた。


「見てて分かったように、エーリスは基本的に身勝手な人間だが、生きた対アルウェス道具という眼で見た事は一度も無い。『俺』を見て人間として扱ったからな。

 能力的な相性の良さもあって、邪竜討伐に同行する事も多かった。何度も厳しい戦いを共にし、自分に対して友好的な相手に対して警戒し続けるほど、俺は意思が頑なじゃない。しかも、説明さえ無くても、俺にとって嫌な思い出しかない地下から連れ出してくれた相手だ。自然に信頼くらいする」


 緊張する戦闘時に長く行動を共にする事で、恐怖を傍にいる味方の恋情と勘違いする場合ケースが割とある。


 カタストロフは度重なる嫌な経験から、恋愛感情ではなく友情を覚えたようだ。

 彼よりよほど心に余裕があったエーリスは、普通に恋愛感情を。ただし、情がこわい人間であるためか、彼女の愛情は彼さえ無事なら世界すら滅ぼしてもいい――と考えるような酷く重いものだが。


「まだ何処かでエーリスを少しは信頼してるんだな。触られそうになった時、嫌悪は感じても恐怖は無かった。光の民アルヴに触られそうになると震えが止まらなくなるのに、そうならなかった……入れ物がお前の身体だったにしろ、アルヴ相手に触られかけたら普通はまだ震えてる」

「……あれ? 貴方の接触恐怖症って、光の民限定なの?」


 思い起こせば、カタストロフはイーシャが救助目的で抱きついた際、少しでも離れようとはしていたが、震えては無かった。

 先程のエーリスの時も、触るなとばかりに手で払い落した。

 恐怖ならば、払い落す前に避けそうなものなのに。


「そうだな……恐怖するのは、あいつらだけだな。

 自分から触るのも触られるのも、他の種族なら嫌悪程度。多少なら我慢出来る。ちなみに人間以外――精霊や動物や魔獣の類は全く平気だ。お前も、俺が干渉されたり無闇に近づいて来られたりするのが嫌いだと、気付いていただろう?」


 イーシャは大きく頷いた。


 当初は人見知りだと考えていたが、干渉されるのが嫌がっているのは口に出されずとも、態度で充分推察出来た。だから、カタストロフの世話をする人間を仕事効率を重視する者を選び、必要以上の接触を控えさせたのである。


「嫌な事は必要以外しない。そういう姿勢でいてくれた事、感謝している。

 エーリスは、俺のために自分の生命を危うく出来ても、自分の意思をなにより重要視する奴だ。現に自己満足で世界を危うくしているのに、欠片も後悔していないしな。子供の事を暴露すれば俺が傷つくと分かっていても、ムカつくからという理由で秘密をあっさり口に出す――そういうところを俺が嫌っていると知っていても、治そうとしない」


 カタストロフは睨むように、氷塊の中で眠るエーリスを見やった。


「だから俺は、誰より求められているからといって、何より愛されているからといって。同じようなモノも似た親愛モノも、返そうとは思わない。那由多なゆたの時が過ぎようと、一度裏切ったエーリスには嫌悪以外返す気にならない。ゆるせないものは赦せないんだ。ただ一人の肉親であってもな」


 カタストロフの意思は堅いようだ。


 イーシャにとって、彼と彼女の確執は所詮しょせん人ごとである。

 エーリスの感情を読み取ったから、彼女に肩入れしたい気持ちはあるが、当事者でないから気軽に考えられるのだ。無責任にも。


 カタストロフが内心を説明したのは、ハッキリとした線引きのため。譲りたくない一線に口を出してもらいたくないからだろう。

 イーシャだって、誰かに自分が必要だって言ってほしがっている事を、わざわざ口に出したりしない。

 エーリスに世界を犠牲に出来るほど一身に愛されている事は、羨ましくて仕方ないが。


 話題を変えるべく、イーシャは気になった事を尋ねた。


「ところで、肉親って、エーリスさんは親戚か何か?」

「……言ってなかったか? 腹違いの姉だ」

「――え? でも、エーリスさんの愛は、肉親に対するような感じじゃ……」


 直接伝わってきたから、親愛で無いとイーシャは断言出来る。 

 全てを受け入れるような慈しみに満ちた親愛では無く、全てを欲しがって奪い取り傷つく様すら一人占めしたがる重く激しい恋情だ。


「前に言ったぞ。光の民は、血の近しいモノに惹かれる。あいつは血に狂う一族らしい人間だよ」

「あ。そうだったわね。でも、貴方が弟なの? 外見年齢的には、兄に見えるけど」


 カタストロフは見た目、二十歳前後。エーリスは十代後半で、少し年下に見えるのだ。

 

 カタストロフが呆れたように、溜め息を吐いた。


「混血の俺と、純血なエーリスの老化速度を一緒に考えるな。ああ見えて、あいつは俺より少なくとも倍以上生きているはずだ。初対面の時から外見変わってないしな」


 それもそうだ。

 イーシャは深く納得し、背中の『紅の刃』を抜刀した。



読んで下さってありがとうございます。

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