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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
47/59

第四十三話 異変

ただでさえ、リアル多忙で書く時間が無いのに、ここ二日、思いついた全く別の話をパチパチやっていました……Orz


もうちょっとで最終局面。

以前活動報告で書きましたが、ネタメモを無くしたのでキリが良いと判断したら最終話になります。

続きの話は番外編(エクストラ?)扱いで、章整理をして最終話の後に載せる予定ですよ。


今回短いです。


 太陽が南に位置をとった頃、約束通りイーシャはカタストロフを起こした。


 実際に、身動ぎもせず静かに眠っていた彼を起こしたのは、膝枕していたルビエラである。

 ルビエラは、直接ガクガクとカタストロフの身体を大きく揺さぶって、叩き起こした。

 あまりの激しさに、首がもげるんじゃないかと内心イーシャが思ったのは秘密だ。


「クー。時間よ、体調はどう?」

「んー……寝る前よりは、だいぶマシだな。吐き気が無くなった」


 カタストロフはルビエラの膝から頭を上げて上体を起こし、状態を確かめるようにゆっくり自身の腕や首を回した。

 申告通り少しは良くなったのか、汗は引いて顔色も心なしか良くなっている。


「水はお飲みになられますか?」

「……飲む」

「食べ物はどうなさいます?」

「食べる。胃に重いものは吐くかもしれん。軽いものをくれ」


 テキパキとカタストロフの世話を焼くフィアセレスを横目に、イーシャは立ち上がって柔軟を始めた。

 待っている間、ずっと座った状態でいたので身体が少し凝っている。

 満足するまで身体をほぐし終わると、イーシャはふとある事に気付いてルビエラに目を向けた。


「ルビエラ。具現化を解いて『紅の刃』の中に戻ってくれる?」

「い~よ。でも、どうしてかしら~?」

「前みたいに貴方が串刺しされる光景なんて、心臓に悪過ぎて見たくも無いわ」


 ちびちびと、パンに野菜を挟んだ軽食サンドイッチを食べていたカタストロフが、大きく頷いて賛同を示した。


「俺も見たくねぇな。戻れ、ルビエラ」

「うふふ。私って愛されてるのね~」


 にこにこ御機嫌な様子のまま、ルビエラの姿がその場からかき消える。

 

「それと、フィアセレス。お前はここに待機してろ」

「――何故でしょうか?」


 弁当箱の半分を残し、カタストロフは蓋を閉めた。

 手巾ハンカチで無造作に手を拭き、服に落ちたパンくずを払い落す。


「再封印所に繋がる転移陣自陣は、条件付きで作動する。再封印に関係が深いルビエラと契約しているイーシャは問題ないが、お前に対しては該当外で弾かれるだろう。遺跡の内部まで着いてきても、無駄足になるな」

「そうですか……そうであれば仕方がありません。私はここで、帰還を御待ちいたします」


 ラムザアースと同じように、イーシャかカタストロフに抱きついていれば、一緒に再封印所まで移動出来るだろうが彼にはそうする気が無いらしい。

 何か理由があるのだろうか。


「おい。イーシャ、行くぞ」


 イーシャが疑問に思っているうちに、カタストロフは地面に突き刺さったままの『蒼の閃』を回収し、遺跡に向かって歩き出した。

 

「分かったわ、クー……それでは、フィアセレス様。行ってまいりますね」

「行ってらっしゃい、イスフェリア」


 イーシャはフィアセレスに向けて軽く一礼すると、カタストロフの後を追った。





 半日ぶりに足を踏み入れた遺跡は、特にこれと言った変化を見せてはいなかった。

 奥へ奥へといざなうかのような印象も、床や壁の様子もそのままだ。

 階段を下り、緩やかに下っていく通路を黙々と歩く。

 何が起こっても不思議ではないため、イーシャはピリピリと意識を尖らせ、警戒しながらカタストロフの後を進んだ。


 どれくらい歩いたか。

 特に何事も起こることなく、遺跡の中心部へと到達する。

 カタストロフの封印具の状態が、やはり重要な因子ファクターだったらしい。

 前回、傍目には何も浮かんで見えなかった床一面を、覆い尽くさんばかりに巨大な魔法陣が光り輝いていた。


 先を行くカタストロフは、特に警戒した様子も無く魔法陣へと突き進む。

 魔法陣は彼の自然放射する力に反応し、ますます強く輝いて今にも作動してしまいそうだ。


 イーシャは慌てて魔法陣内に足を踏み入れた。

 一人取り残されては、この遺跡まで来た意味がない。 


 カタストロフが目を閉じ、浄化の範囲を魔法陣いっぱいに広げる。

 恐ろしく澄みきった浄化された魔力がイーシャに、床に壁に天井にぶつかり、儀式空間全体に満ちた。

 瞬く間に術式が作動し、視界内の空間が歪んで、浮遊感に身体が包み込まれる。


 イーシャは思わず目を閉じていた。

 転移し終わってすぐに、物理法則に従って身体が落下する。

 両足に力を込め、綺麗に着地。


 周囲に広がるひんやりとした空気。

 体調が狂いそうなほどに濃密過ぎる魔力に身震いしながら、イーシャはゆっくりと瞼を上げた。


 前回と同じ、遺跡内で今なお幾つもの術式が作動し続けている広い空間。

 床一面に広がる魔法陣の外側に、イーシャは立ち尽くしていた。

 すぐ傍に、カタストロフの姿がある。


 リィ……イイイイィン。


 リィイイィイイ……ィイイィン。


 一歩分、イーシャがその場から踏み出すと、背中の『紅の刃』が小刻みに振動し、高く低く音を鳴らした。

 カタストロフの手にある『蒼の閃』も、同じように振動して音を奏でている。


 水晶に包まれたマナの木へ前回のように近寄ってすらないのに、この顕著けんちょともいえる反応。


 再封印に必要なものが二つ揃っているからなのか、前回居なかったカタストロフの存在のせいなのか、アルウェスに浄化の力を送り強く縛り付けていた封印が一か所ほころびを起こしたためか。


 いずれかが、あるいは全てが要因なのだろう。

 イーシャは首を傾げながら、前回との相違を調べるべく周囲を見回し――魔法陣の中心にある氷の塊を流し見て、目をしばたたかせた。


「……あれ? なんか、違う……?」


 イーシャは違和感を覚え、氷塊を注視した。

 そして――氷の中に閉じ込められた、光り輝くような美貌の持ち主の、緩く瞼を上げた・・・・・金色の瞳と目が合う・・・・

 長く濃い銀の睫毛まつげにけぶるような美しい金色の瞳は、しっかりとイーシャの姿を捉えていて。

 思わず彼女は後ずさった。


「ええぇえぇー!? うそぉっ!?」


 吸い込まれるような怪しい魅力に満ちた金色の瞳。

 昨日は瞼に閉ざされて見えなかったのだ。

 氷の中に居るはずなのに、光の民アルヴの美女はゆっくりと瞬きを繰り返し、じっとイーシャを見ている。


 目が知っている誰かに似ているような。


 そう考えた瞬間、イーシャは首根っこを掴まれ、強い力で床に叩きつけられた。

 受け身をとる余裕などなく、身体をしたたかに打ちつける。


「ちょっとクー!! いったい何を――」

「は? 何を言ってる。そもそもなんで、いきなり叫んだと思ったら床に倒れてるんだ? お前は」


 訝しそうなカタストロフの声は、彼女を床に叩きつけたばかりにしては遠くに聞こえて。


 ――ふうん。『クー』ねぇ。

   愚かな夢の民ごときが身の程知らずにも、あの子を愛称でそう呼んでるの。

   忌々しいたらないわね――


 聞き覚えの無い『声』が、倒れたイーシャの真上から響いた。

 驚きに彼女が息を呑んだ瞬間、するりと何か冷たいものが体内に滑り込む。

 総毛立つような違和感が、身体じゅうをめぐった。

 

 ――ちょっとだけ、借りるわよ――


 何を借りるというのだろう。

 イーシャが疑問を呟く間もなく、彼女の身体が彼女の意思に反する形で勝手に身動きした。

 

 まさか。

 イーシャがおののいているうちにも、勝手に身体が動く。


 床に両手をついて倒れ伏していた身体を起こし、先程からの妙な行動に不審を抱くカタストロフの方へ身体を向ける。

 両手を腰の上に置いて胸を張り、イーシャの体内にいる『誰か』は上目遣いで彼を見つめた。


「――意外なほど早かったわね。カーフィ。私は手枷の方も砕けた頃にやって来るかなって、思ってたのよ」


 ひくり。

 カタストロフの口元が、一瞬だけ引き攣った。

 しかし、目立った反応はそれだけで、『蒼の閃』片手にスタスタと壁に向かって歩き出す。


「あ、ちょっとカーフィ!! 何処行くのよ! 待ちなさい!!」

「…………はぁ」


 立ち止まって肺の中に遭った空気を全部絞り出すような、深い深い溜め息を吐くと、カタストロフはくるりと振り返った。

 トン、と『蒼の閃』の柄を握っていない方の手で押して向きを変え、彼の後を追ってきたイーシャの身体に刃の先端を突き出す。


 武器を向けられて、反射的に身体が回避態勢に入り、無意識に後ずさる。

 ひたりとイーシャの鼻先スレスレで、蒼く輝く刃が止まった。


「相変わらず、自分勝手なようだな。

 『力』を受け止めきれないと分かりきっている夢の民イーシャの体中に入って、重い負担をかけておいてまで、わざわざ俺に何の用だ?

 ――なあ? エーリス」



詠んで下さってありがとうございます。

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