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悪意を飲み干した後に始まる物語

よろしくお願いします。


これがおとぎ話の主人公なら、素敵な王子様が颯爽と現れて、悪を倒して、結ばれて、めでたしめでたし。


だけど生憎、現実にはみんなに都合のいいヒーローはいないし、無敵な勇者の剣だってない。

今日は昨日の続きで、明日もその先も続いていく。


だから、この身一つきり、刃にするしかないのよ。








────ああ。馬鹿馬鹿しいこと。


一方的な正義感を振りかざした王子様、弱さこそを武器に成り上がろうとする女、彼女の庇護者を気取る令息たち。

そのすべてに相対する公爵令嬢は、たった一人きり。


貴族子女たちが集う学園の卒業パーティーは、開幕と同時に修羅場と化した。

想定外? そんなわけはない。最終学年になってからというもの、学園全体が公爵令嬢の敵だった。


高飛車な悪女、立場を翳して弱き者を虐げる王子の婚約者、嫉妬に狂った哀れな公爵令嬢。

学園での彼女は、今や噂の的だ。


「学友を殺そうとまでするその性根、未来の国母に相応しいとは言えまい。この場で誠心誠意謝罪をするならば、命までは取らないと約束しよう」


「わ、私には、あなたを許す用意がありますっ!」


「心優しい彼女に感謝するのだな」


掴みかかろうとした騎士団長子息の腕を扇子で叩き落とし、公爵令嬢は口元を隠して睥睨した。


「確認を。殿下とわたくしの婚約は、破棄ということで間違いございませんか。陛下のご許可もあると」


「謝罪がないならば。陛下にも報告し、婚約を破棄する」


うっそり、扇子の奥で嗤う口元に気づく者はいない。


「婚約破棄、承りましたわ」


その時、給仕が不自然に公爵令嬢に近づき、彼女の華奢な手がグラスを受け取る。

怪訝に眉間に皺を寄せる王子に、公爵令嬢は微笑みと共に告げた。


「よろしくて? 殿下。わたくしを殺す毒は、あなた様ですわ」


何を言っているのか、という言葉は、声にはならなかった。


グラスを空にした公爵令嬢の顔が、一瞬にして色を失う。

あまりの変わり様に、思考が停止した。その間にも瞼は閉じ足元は揺らぎ、やがて力尽きた身体が床に崩れ落ちる。


「な、にが……」


何が起きた。何が起こった?

混乱する王子をよそに、悲鳴や怒声が場を埋め尽くす。

駆け寄ってきた彼女の兄が名を叫び、何度も息を確認し、必死に呼吸を取り戻そうとする。


殺す? 死ぬ? なぜ。婚約破棄を告げられればよかったのだ。そう、それは、彼女に与えた機会で。

ほんのわずかでも縋ってくれたら、許すつもりだった。


真白な婚約者の口元は、笑みを縁どっていた。




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