いざ魔王討伐に向けて出発~②
「これが異世界の料理ですか?これがコロッケ?あれがカツ?」
「どれもこれも美味しいですけど、この野菜の天ぷらが私は一番好きです。」
「デザートも楽しみです。」
「料理も美味しくて・・・でも、この箸といい、フォークですか、とても便利ですね。」
と人妻Sは、タイジが作った料理に舌鼓を打っていた。初めは、不器用に使っていた箸も、スプーンとナイフとともにつかうフォークにも戸惑っていたが、直ぐに食べるのには不自由をしないようになっていた。
「そう言ってもらえると嬉しいな。」
とタイジが言うと、
「でも、あまりものなのが不満ですわ。」
とリリス。
「元の勇者パーティーにも作ったけれど、まずはみんなの分を取り分けたから、彼らの方が余りものかもしれないよ。そのことは絶対言わないけれど。」
出発前の晩餐とでも言えるこの場に、この宴に、クロノス他女聖騎士も招かれていた。
「異世界に来て、日本料理が食べられて嬉しいよ。」
タイジは、午後元の勇者パーティーに、彼の手作り日本料理モドキの差し入れにいっていた。皆、涙をながさんばかりに喜んでくれた。彼からすれば、彼らが死闘演じている中、半ば幽閉されているとはいえ安全な中での2年間で色々試していたものであり、少し心苦しかったし、決して満足いくものでないというより、ここの素材を使い、不十分な技術で作った、あくまでもモドキに過ぎないという気持ちもあった。だから、少し、褒められると、こそばゆいところでもあった。
「いよいよ旅立つのね?手助け一つできなくてごめんなさいね。」
「そんな顔するなよ。お互い、訳の分からないスキルとか能力をつけられてしまった結果なんだから。何とか魔王を倒して、みんなの安全を確保して、帰れる、元の日本に帰れる手段を探させ、ここで降伏に暮らせるようにもさせることができるように頑張るつもりだから、応援していてくれ。それに手助けは、魔王を倒した後に必要になるかも・・・。」
「まあ、その時は・・・。」
「王妃様達とはうまくやっていられているのかい?毎日くんずほぐれつしているのかい?」
「まあ、いい人達だし、可愛い人達だよ。別に毎日というほどではないよ。いろいろな意味で、これからうまくやっていけると思うよ。」
「全く、人妻の臭いをプンプンさせて、鼻の下を伸ばして・・・いい気なもんだぜ。」
「うんざりしているよりはいいだろう?」
「全く、おじさん達は・・・。」
「スキルのせいだから、悪く言わない。それで、俺達が助かるわけなんだし。」
「王妃様達は、戦えるのかい?」
「昨日、正確に鑑定したら、レベルは20越え、能力値は2000越えだよ。」
「ひゅ~。」
「私以上ね。」
「俺より上だぜ。」
「それで、兄貴は?」
「俺は、レベル60、能力値は1万越えだよ。」
「レベルが違うな。」
「まあ、それなら大丈夫だろう。元気に帰って来てくれよ。」
「今度は、日本食を私達が御馳走できるように頑張っているから。」
「俺も頑張るのか?」
「当たり前でしょう?」
と元勇者チームの面々は、笑いあってタイジを見送ってくれた。
「でもさ、結果的には王様達の奥さんを寝取ったんでしょう?怨まれているんじゃない、彼?」
「多分そうだろうな。それがなくても、強い勇者は魔王が死んだら用なしどころか危険な存在というのが、結構異世界ファンタジーにはあるだろう?」
「そうなると、俺達におっさんを殺すように命令が来るとか?」
「当然、その後は私達に矛先が向くだろうな。」
「どうしたらいいんだよ?」
「下手に分断されて、相打ちとかを狙われないように、一蓮托生、持ちつ持たれつという関係を理解してやっていかないといけないということよ。」
「助け合って・・・ということか。」
「そうでもしないと、この世界・・・俺達は魔王を倒すだけに呼ばれた捨て駒見たいなものだからな、息ていけない。」
「と、とにかく、早く体と力を回復させて、彼が魔王を倒して無事に帰ることを祈りましょう。」
その言葉に全員が頷いていた。
タイジは、ヘル達を通じて、ウラノスを通じても、再三、集団召喚された者達の安全を保障するように要請、或いは要求を試みていた。
「国王陛下も無慈悲な冷血漢ではないから、用なし、用がなくなったから・・・ということはないよ、安易にはしないよ・・・と思う。」
とウラヌスは言ったものの、唆す連中がいるだろうし、冷酷な、非情な判断もできるお方だからな、それに寝取られたということもあるし・・・と心の中では思っていた。その時、俺はどうしたらいいだろうか?とも考えた。
「お兄様方は、そして私の夫も、多分タイジ様を殺そうと思う可能性は強いと思うわ。タイジ様が死んで私達は幸せに・・・なんてはしてくれないと思うわ。良くて一生、死ぬまで幽閉ね。もう、タイジ様と一心同体、同志、一蓮托生で身を守っていかないといけないと思うわ。あ、あなた方も同様よ。部外者面してもダメですからね。内通者、裏切り者になって保身なんて考えないことよ。それをやっても、後で処刑しか待っていないわよ。ちょっとわかっているの?あんたもよ、行き遅れの女騎士さん。」
と一気にまくしたてたフレイアは、最後にウラノスの隣に座る女騎士を指さした。
「?」
まずは行き遅れ呼ばわりされたことに腹がたったが、その次になんで私までと恐れおののいた。
「まあ、私も大してはありませんが、伝手を利用して情報を集める者とかを配置しますから、皆様もご実家などへの働きかけをお願いします。君も、一応騎士団員なんだし、貴族出身なんだから、色々と協力なりを依頼しておいてくれ。そうしないと、君も処刑されるよ、僕と同様にね。」
彼は、そう言うと、手を水平にして、首を横切らせた。彼女は震えるしかなかった。
「私も実家、母国に働きかけるわ。イシュタルもね。フレイアは、義母上の実家に働きかけて・・・ああ、あなたなら政府内に協力者がいるでしょうから、彼らにも働きかけて。リリスも実家を、その気にさせて頂戴。タイジ様、私達はもうあなたの妻同様ですから、自分を守るためにも、あなた様のために尽力いたします。」
ヘルの言葉に、
「期待しているよ。ともに、よい未来を切り開こう。」
と彼はニヤリした。心の中では、彼女達に頼るしかないな、とため息をついていたが。




