出発又は初陣➃
「ええ~い。これならどうよー。」
イシュタルが、大きな火球を何発も、かつ同時に複数、無詠唱で連発した。既に、タイジが、
「転進敬会奥義大進火、大退火。」
というわけの分からない詠唱で、巨大な火のリング、氷のリング、火炎弾、氷弾をいくつも飛ばし、剣の斬撃、
「転真敬会奥義小進水」
これまた妹不明の詠唱でのが、大地を切り裂くように巨大な衝撃波となり魔族の陣に飛ばした。これで魔族軍の陣形は大いに崩れ、それどころか半壊、伏兵は隠れる場所を失い、そこから飛び出さざるを得なかった。そこに、ヘル、リリス、フレイアが飛び込んだ。それを援護するように、タイジが続き、遅れて普通?の勇者達、騎士団等が続いた。イシュタルのそれは彼らへの援護だった。タイジのよりはるかに劣るように見えたが、魔族の軍の誰もそれを食い止めることも、弾き返すこともできなかった。
「はあ、我ながら恐ろしいわね。」
と彼女はため息をついた。その彼女の周囲に雷撃がいくつも落ちた。慌てて振り返ると、魔族達が何人も、黒焦げになっていた。
「油断してはダメだぞ。」
いつの間にか、すぐそばに立っているタイジが注意した。
「防御結界や自動敵排除魔法をかけながら、攻撃魔法を放てるだろう?これからは、忘れないように。それから、周囲に警戒か索敵魔法を発動しておくようにね。」
「はい。分かりましたわ。」
イシュタルは素直に、防御結界を張り、索敵魔法を発動した。
その後は、たまに前衛を突破してくる魔族達の攻撃を防御結界で弾き返し、ゆっくり落ち着いて、火炎陣を発生させては殲滅しながら、援護の攻撃魔法を放った。その彼女だったが、戦いの最終段階では、
「この化け物顔女、気色悪いわよ。」
と怒鳴声を上げて、襲って来た蠅頭の、胸に人間似の疑顔をつけた魔族を蹴り飛ばして、数十m先まで転がせてしまった。それは、魔族軍の指揮官とその親衛隊が参入し、その一人が彼女に襲い掛かったからである。
「それでいい。私は、他の3人を援護するから。じゃあね、また後で。危なくなったら呼んでくれ。出来るだけみているけれど。」
と言ってその場から消えた。
「私のことを見てくれているんだ。」
と少し顔を赤らめて呟いた。
「全く、こういう時のために連れて来たのに、騎士団や冒険者達を・・・あ~あ、あんなところで、自分達で苦戦中だものな。実力的にはやむを得ないか?応援しなくても、何とかやっているようだから・・・。」
と呟きながら、ぼやきながらヘル達の所にもどった。ヘルは、大剣を軽々と持ち、それで魔族達を薙ぎ払うように魔族達を切り裂いていた。魔族達の防御結界や身体強化、或いは元からの甲羅の体や分厚い鎧の魔族の将兵を薙ぎ払っていた。リリスの弓から放たれる矢は後方にいる大物魔族の体を貫いたり、何人もの魔族の体を貫いて爆発して周囲の魔族をその犠牲にしていた。フレイアは、その2人を援護するように、攻撃魔法を放ったり、槍を振るって、突き刺すよりも叩きつけて次々に魔族騎士を打ち倒し、彼らの闇魔法攻撃を中和化してしまった。3人の連係は取れてはいたが、背後を取られたり、囲まれたりは度々発生していた。その度に、タイジが魔族達を蹴散らした。しかし、イシュタルを助けてから戻ってみると、そういうことがなくなっていた。タイジは、ホッとし、
「まあ、初陣だもんな。俺なんか、まだ放つ魔法でどのくらい、相手をどのくらいまで倒せるかとも、どの程度放つのが限界かもわからないしな。ん?」
ヘルの前に、いかにも魔族軍の幹部の一人のような男が姿を現した。リーダーだな、とタイジは感じた。
「この俺が自ら相手をしてやる、ありがたいと思え。さあ、一対一で来い。」
とほざいているくせに、部下達も共に戦うつもり満々ではないか?相手は、タイジは心の中で悪態をついていた。タイジが、その部下を何人かを、
「転真敬会奥義小進水。」
ビームのような光が射抜いたが、ヘルはその幹部を最初から押しまくり、彼の援護なしに倒した。
タイジと人妻Sの活躍で魔族軍は完全に壊滅状態だった。その指揮官は、自信満々だった。
「勇者はあいつだな。女達に守られている・・・。よし行くぞ。」
と自ら、その親衛隊を率いてタイジ達に殺到した。
後から分かったことだが、最強勇者が参陣するという噂が、どう言うわけか魔王の元迄届き、高位魔族の一人が、
「その最強勇者とやらは、私が始末いたしましょう。」
と名乗り出て、人間界に密かに入り込んできていたのだった、己が親衛隊も連れて。ある意味、最強無双勇者暗殺部隊というところであり、よくある魔族の遠征部隊を装い、油断させて、ということも狙っていたらしい。
彼から見れば、角と牙のあるネズミ頭の魔族、自分と腹心たちが連携をとれば、その勇者は簡単に倒せると思っていた。本当は自分一人でも、十分だとも考えていた。それに、最強無双勇者という情報とともに、
「召喚した勇者の使い物にならないスキル持ちで2年間幽閉されていて、他の者が倒れて彼しかいなくなったため駆り出された。」
という情報も入っていたせいもある。
「俺は、どんなに弱い奴でも全力をだして戦う主義だ。」
と手にした魔剣と自分の体の防御に渾身の魔力を込めて、確実に見つけたその勇者に斬りかかった。彼の持つ剣は、聖剣の輝きは見受けられなかった。やはり、張子の虎、魔王軍を威嚇するための偽の情報だと彼は確信した。彼の両脇から、火炎と雷がその偽勇者に放たれた。それを、その援護を、余計なこととと思ったものの特に咎めなかった。確実に勝つには二重にも、三重にも、手厚い攻撃をするものだということと義務を果たしている部下を自分だけの功名心で叱責するのは士気のためにもよくはない、と判断したからだ。その勇者は、その火炎と雷をはじき返した。ふん、中々やるな、だが、これで終わりだ、と彼は心の中で叫んだ。渾身の力で、魔力をいっぱいにため込んだ魔剣を振り下ろした。
「何が起こった?」
と魔族軍の指揮官のネズミ頭は、叫んでいた。
「こっも片付いたわよ。」
「偉そうに。タイジに援護してもらっておきながら。」
「それは、あなたも同じでしょう?」
「争わないで下さいな。義姉様方。初陣は無事飾ったということで。」
「私は1匹だけですけど、手助けなしでしたわ。」
「まあまあ、初陣が無事終わったんだ、言い争いはやめろよ。お~い、ウラノス、この頭、どうする?再生できないように斬ったが、しばらくは生きているだろう。脳みそを取り出して、情報を取り出すか?まあ、任せるよ。」
という声が聞こえていた、ネズミ頭魔族には。彼の目には、自分の一撃で真っ二つになったはずの勇者と自分の親衛隊の面々が倒したはずの女達4人の姿があった。




