第38話:贖罪の一矢
「ようやくお出ましだな、大将」
異形の腕を露わにした宰相を前に、カインさんが静かに剣を構える。虹色のオーラは、まるで彼の闘気に呼応するかのように、一層強く輝きを増した。
「忌々しい光だ。だが、それもここまでよ」
宰相がその異形の腕を振るうと、闘技場に設置された増幅装置の柱から、黒い瘴気が溢れ出し、彼の力へと変換されていく。街の人々の魂を喰らう、禁断の力。その圧倒的な魔力量は、私たちの虹色の聖域と拮抗し、空間がビリビリと歪み始める。
「どうだ! これが、真の支配者の力よ!」
宰相から放たれる闇の波動が、私たちに襲いかかる。ゴードンさんが盾を構え、私が聖域の力を集中させて防御するが、一撃一撃が重い。街全体の負のエネルギーを背負った彼の力は、想像を絶するものだった。一瞬、私たちの動きが押し返される。
その、刹那だった。
「――まだだ。まだ、終わらせない……!」
絶望の淵で、全てを諦めていたはずの声が響いた。
声の主は、貴賓席で崩れ落ちていたアルフレッド王子だった。彼は、震える足で、しかし確かに自らの意志で立ち上がっていた。その顔には、もはや王子の驕りはなく、ただ、自分の罪と向き合おうとする一人の男の、悲痛な覚悟だけが刻まれていた。
彼の視線の先にあるのは、気を失い、コアを抜き取られて倒れているミリアの姿。
「ミリア……すまなかった。私が……私が愚かだった……」
彼は、ミリアのそばに散らばっていた、彼女の魔道具の杖の破片からこぼれ落ちる、微かな光の魔力を、必死でかき集める。そして、懐から一つの古いペンダントを取り出した。
それは、彼の母親が遺した聖遺物で、支援聖女の力を安定させる効果を持つ「鎮静の護符」だった。
「これしか、私にできることはない……! だから、頼む……! これで、私の罪を……!」
アルフレッド王子は、全ての想いを込めて、その護符と光の魔力を、フィールドで戦う私たちに向かって投げた。
その光を受け止めたのは、リーシャさんだった。
彼女は、戦況を見極めながらも、王子の贖罪の叫びを、確かにその魂で感じ取っていた。
彼女は受け取った護符を、迷いなく、あの**「魂の矢」に固く結びつける。
「ゴードンさん!」
カインさんの鋭い声が響く。ゴードンさんは、即座にその意図を理解した。
「任せろぉっ!」
彼は、宰相の闇の波動に対して、防御ではなく、敢えて突撃を仕掛けた。「魂の盾」**が彼の前面で輝き、一時的に闇をこじ開け、ほんのわずかな隙間を作り出す。
「今だ!」
カインさんの剣が、その隙間をさらに広げるように、闇の奔流を切り裂く。
そして、その光の道筋に向かって、リーシャさんは矢を放った。
彼女が放った**「贖罪の光と鎮静の護符を宿す一矢」**は、夜空を駆ける流星のように、全ての希望を乗せて飛んだ。
矢は、ゴードンさんが作り出した隙間を抜け、カインさんが切り開いた道を通り、一点の狂いもなく――
宰相が守る増幅装置のコアへと、突き刺さった。
バキン! と、ガラスが砕け散るような甲高い音が響き渡り、コアは眩い光を放って、砕け散った。




