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神具を作る者達  作者: aqri
エピローグ
65/65

職人として生きる者達

 その後は一悶着あったようだがあっさりと事は終わってまたいつもの日常が戻っている。ルオの言った通り、ラクシャーナ達は大々的に名前を公表されて薬の密売をしていたことを断罪された。処刑ではないがラクシャーナは教会からの追放、およびその責任を負って現教皇も地位を剥奪された。新教皇に着いたのは王家との関わりが深い人物。それに引き換えるように第二王子は監視付きの謹慎処分とされその監視人に教会の人間が選ばれた。今後永久に継承権はく奪という措置つきだ。こうしてお互いの権力を交換することで一応は落としどころをつけたらしい。

 誘拐された職人たちに多少取り調べはあったようだが、よくわからないものを作らされていたとだけ証言してあっさり終わったとの事だった。取り調べをした相手……裏にいる王家や教会もそれを望んでいる。



「ム、ム、……何だっけ、あいつの名前」

「ムハンダゥバ」

「あ、そうそう。そいつって結局どうなったんだろうね」

「おとなしくしてる奴じゃない気もするし、牢屋に入れられても自力で飛び出してきそうだから逃げたんじゃないの」


 ムハンダゥバの情報は一切入ってこなかった。国としては隠したい存在なのだろうか、と腑に落ちないが確認のしようがないし確認する意味もない。

 サージとサカネは結局あれからこの町に住み続けている。村に帰っても嫌な思いしかしないし、売り上げを伸ばしたいという気持ちより今は自分たちの技術をあげたいという気持ちの方が強い。

 ルオ……老人の方のルオに弟子入りを懇願したが断られた。そこで風呂も寝る時も便所の前まで四六時中張り付いて頼み続けた結果ようやく「好きにしろ馬鹿野郎ども!」というありがたい返事をもらった。それを見ておっさんの方のルオは大爆笑しており、そこからまた師弟の口喧嘩が始まっていた。


 二人は協力して生きてきただけあって家事や身の回りの事は全部自分たちでできる。食事をしようとしない師匠の口に粥を無理矢理突っ込んでくる位だ。

 いまだに技術は教えてもらっていない。手取り足取りを教えるのが苦手な師匠は勝手に見て覚えろと言い放つ。しかし「じいちゃん何も作ってくれないじゃないかさっさと作って!」というサカネとの二時間に渡る口喧嘩に負けてブチ切れながら物を作り始めた。

 その様子に喜んだのはその界隈に住む職人たちだ。「じいさんがまた作り始めたぞ!」と心から喜ぶ。生きる気力がなくなりつつあったから作品を作らなくなったことをみんな察していたのだ。


 意外にもサージはルオの技術にも興味津々だった。特にあの剣を見せてくれ、他におっさんの持っているもので変わったものはないのかとこれまたしつこく付きまとう。


「うっせえな、これしかねえよ」

「じゃあそれもうちょっとじっくり見せてくださいよ」

「これは俺が親父から受け継いだ大事なモンなんだよ、他人に触らせるなって言われてんだ」

「という事は、剣の手入れも一人でできるのですね。もしかして武器も作れるんですか? 二つに分けたら絶対強度足りないのにどうやって折れずに使うんですか」

「やかましい。あとそんなにギミックが見たいなら――」

「何ですか、ぎみ、ぎみっく? って。自分の一族の言葉をたまに使うのやめてください、単語帳を作らなきゃいけなくなるじゃないですか」

「仕掛けのことだよ、うるせえな! そんなに仕掛けが見たけりゃ俺が作った耳飾りの左右重ねてくっつけてみろや!」

「え? あ、変わった形だと思ったけどこれ重ね合わせることができるのか! 教えてくださいこれ! 棺桶の形で!」

「無理に決まってんだろ!」


「じいちゃん薬飲んでないでしょ、エルさんの作ってくれたやつ!」

「飲んだよ!」

「嘘つかないでよ、あれ一粒取り出したら牛の糞みたいな匂いがするんだから! 全然臭くないし!」

「飲みたくなくなるような例え方するんじゃねえ!」

「やっぱり飲んでないじゃん! 飲ませるよ!? 無理やり! 鼻に突っ込むよ!」


 以前にも増して工房からは騒がしい声がする。その様子を周辺の住民は微笑ましく見たり、集中して作業している職人からは「毎日毎日うるっせえ!」と怒鳴られたり。そして騒がしい要因がもう一つ。


「サーカーネーちゃーん! 今日は私が作った腰巻つけてもらうからね。あんた腹筋割れてんだから上下分かれた服を着て腹出しなさい! おっぱいも大きい方なんだから谷間出しなさいよ!」

「ひいっ!?」


 色気のある服や装飾品を作っている女性たちが勢い良く扉を開けて工房に入ってくる。それを聞いてサカネは師匠に薬袋を叩きつけると慌てて窓から飛び出し逃げ出していた。


「窓から逃げるなんてお見通しだよ、そっちにはアリンナが張ってるからね。……捕まえるまでの間、あんたでもいいか。ちょっとこっち来なさい」

「なんでですか、嫌ですよ!」

「男が女物を着る、王都では流行り始めてるらしいわ。新しい絵柄を考えるにはアンタがぴったりなの! ちょっと女顔だけどそこがまた良い!」


 慌てて別の窓からサージが飛び出して逃げる。ちなみにそっちにも別の女性が待ち構えている。


「祭りが近いから客足が増えてきてるんだ、売れる絶好の機会なんだよ! それ着て町中と都市部歩いてもらうからね!」


 うふふふ! と笑いながら工房を飛び出す女性。まるで嵐が去った後のように静まり返る。毎日毎日怒鳴り合いをしていたはずの二人のルオは疲れ切った表情でその場にしゃがみ込んだ。


「毎日うるせえ……あとてめえはさっさと薬飲めよ。サカネがうるせえ原因それだろうが」

「何百回も同じこと言うんじゃねえよ全く」

「畜生が。もうすぐ祭りを覗きに知り合いの一族が立ち寄ることになってる。あそこにはもっと声がでかいクソうるせえ兄弟がいるんだよ。今までの倍になるぞ、やかましさが」

「絶対にこの工房に入れるんじゃねえぞ」

「無茶言うんじゃねえ、壁壊してでも入ってくるわ」

「暴れ牛か何かかそいつらは、まったく」


 そこまで会話をして師弟はうん、と頷きあう。押し付けよう、双子どもに、と。



 毎日のこの騒がしさに比べたら、つい先日のたった数日間の出来事など大した事は無い。教会だ、王族だ、神様だなんだと。いちいちそんなもので区分しなくても人は人、ただ生きているだけだ。

 その人生の中で何かを学び、己が豊かになって初めて他人を幸せにすることができる。突然命を奪われてそれが叶わないこともある。それを嘆き悲しみ、それもまた自分の知識や血肉として生きていくしかない。


 服の中にしまってある首飾り。妻の形見だ、それをこっそり取り出して手の平に乗せて見つめる。自分たちが夫婦となったときに彼女に贈ったもの。夫が妻に自分の作った装飾品を贈り身につけてもらうのが習わしだった。生涯の伴侶に喜んでもらう為、そしてこの女は俺のものだという他の男たちへの牽制のために。

 そこには磨き上げた美しい宝石で彩られた太陽の印が輝いていた。自分たちの生きる道に光あれ。その願いを込めて丹念に作り上げたものだ。


(なあ、メイラ。俺の人生は今それなりに輝いてるのかな。お前と歩みたかった人生だったが、別の生き方を選ばざるを得なかった。だがこうしてお前と共にある事は誇りだよ)


 本物の太陽に照らされて、太陽の印の首飾りはキラキラと輝く。まるで満たされ始めたルオの人生を照らすかのように。


END

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