言葉がなくても 1
とりあえず、俺と紫藤さんはデパートまで移動する手段を探すことになった。
簡単に言ってしまえば、自転車を探していたのだ。
「自転車……意外とちゃんと鍵がかかってるなぁ」
当然のことながら、駐輪場に置いてある自転車のほとんどには鍵がかかっていた。
「……こうなると一度俺の家に戻ってから自転車に乗ってデパートに戻ったほうがいいかなぁ」
「あう?」
俺が何気なく呟いた一言に、紫藤さんは反応した。
「え……どうしたの? 紫藤さん」
すると、紫藤さんはメモに何やら書き込み、素早く俺に手渡してくる。
「『お前の家、近いのか?』……まぁ、家までなら十五分くらいでつくけど」
「あう! うあ……あう!」
俺が全く理解できていないのに気付いたようで、紫藤さんは慌ててメモ帳にまたしても何かを書き込む。
「『だったら早く連れて行け』……俺の家でいいの?」
俺が訊ねると、紫藤さんは笑顔で頷いた。
一刻も早く小室さんと古谷さんの下に戻るべきだと思うが……かといって俺も、一度家に帰って休みたいという気持ちもある。
「……わかった。じゃあ、一旦、家に戻ろう」
俺がそう言うと紫藤さんも何故か嬉しそうだった。
俺が家に行くことについて、なぜ紫藤さんが嬉しそうなのかは理解できなかったが、とにかくまずは家に向かうことにした。
「でも……大丈夫かな?」
「あう?」
俺が思わずつぶやくと紫藤さんが俺の顔を見てくる。
「いやね……道の途中にゾンビもいると思うし……」
「あう! うあ、あうあ。あう」
紫藤さんはそう行ってなぜか得意げな様子だった。
「え……もしかして、任せろって言っているの?」
「あう。うあー……あう! あうあ!」
まるで何を言っているかわからないが、そんな感じだった。
「あはは……ありがとう。紫藤さん」
俺がそう言うとなぜか紫藤さんは目を丸くして、俺から視線を逸らした。
ゾンビになっても、未だに紫藤さんのことはよくわからないのだった。




