言葉なき旅人 3
「ゾンビは……いないかな?」
さすがに文房具屋にゾンビはいないと思ったが、いつもの癖で俺は確認してしまう。
案の定、ゾンビはやはりいないようである。
「……よし。紫藤さん、大丈夫みたいだ」
「あう~……うあ。あう」
何を言っているかはわからなかったが、なんとなく俺は呆れられているようだった。
紫藤さんのことだ。おそらく俺が心配性過ぎると言いたかったのだろう。
「あはは……えっと……ああ。あった」
俺は程なくしてメモ帳とペンを発見する。
本当は良くないことだと思うのだが、躊躇うこと無く俺はそのままペンとメモ帳を紫藤さんに手渡した。
「えっと……文字は書けるよね?」
「あう! あうあう!」
怒っているようだった。どうやら、遭ったばかりの時の小室さんとは違い、身体が硬直しているわけではないらしい。
紫藤さんは俺に手渡されたメモ帳に何やら書き込んでいく。
「あう」
そして、俺に手渡してきた。
「……『一体どうなっているんだ』……俺に聞かれてもなぁ」
紫藤さんはじれったそうに俺のことを見ている。そして、また何やらメモ帳に何かを欠くと俺に手渡してきた。
「『とにかくお前のせいでこうなったんだから、どうにかしろ』……俺のせいなの?」
「あう」
当たり前だと言わんばかりに紫藤さんはそう言った。ここで反論してもおそらく聞き入れてもらえないだろうし、何より反論しても仕方ない。
「……わかった。とにかく、デパートまで行こう。紫藤さんも来るでしょ?」
「あう」
当たり前だ、というふうに紫藤さんは頷いた。
こうして俺達は再び小室さんと古谷さんが待っているであろうデパートへと向かうことにしたのだった。




