言葉なき旅人 2
「あう! うー……あー……」
「あー……えっと……何?」
線路を歩き、俺達は目的の駅へと到着した。そして、そのまま改札口を出る。
そこは、かつて、俺と古谷さんが出会った場所だった。
「あう! うあー! あう!」
「……ごめん、紫藤さん。全然わからない」
そして、今隣にいるのは、紫藤さん。
ゾンビになったはず……だったのだが、そうではない。
いや、ゾンビにはなっていると思う。しかし、どうやら紫藤さんに意識や理性は残っているようである。
ただ、問題は言葉だった。
紫藤さんはどうやら、言葉をしゃべることができなくなっているらしい。
小室さんや古谷さんとはまた違ったタイプで特殊例、ということなんだろうか?
「あう! う~……」
紫藤さんはどうやらまた怒っているようだった。
しかし、俺にはなぜ怒っているのか、そして、どうしたいのか全く理解することができない。
もしできるとするとそれは……小室さんなのだろう。
ゾンビの言葉を理解する小室さんならば、紫藤さんが何を言いたいのか理解してくれるはずである。
しかし、小室さんの元に戻るまでにはどうすればいいのか……
俺は紫藤さんを見る。どうやら紫藤さんは出会った時の小室さんのように、手足は硬直していないようだ。
「だとすれば、何かに文字を書いてもらえれば……あ」
俺が駅周辺を見回していると、目的のものはすぐに見つかった。
「紫藤さん。あそこに行こう」
「あう?」
俺が指さしたのは、駅近くの文房具屋であった。




