嘘つきな旅人 4
相当薄情だと思ったが、俺はそのまま振り向かずにゾンビの方に向かっていった。
紫藤さんが今まで強がっていたってことは、別に悪いことではない。
だから、本当はゾンビが怖かったからって別に問題はない。
ただ、俺は紫藤さんを宮本さんのように、無理やり恐怖に付きあわせたくなかったのだ。
ゾンビが怖いなら近づかないのが一番なのだ。
このまま俺と一緒にいても、行く着くさきには、小室さんと古谷さんがいる。
俺にとっては小室さんも古谷さんも人間だ。
でも、宮本さんにとってはそうじゃなかった。
だから、ゾンビをあんなに恐れている紫藤さんにとっても……
だからこそ、俺は紫藤さんとここで別れたほうがいいと思った。
そのままゾンビを見る。
空を見上げたまま微動だにしない……おそらく、ぼぉっとタイプだろう。
俺はそのまま音を立てないように、慎重にゾンビの横を通り過ぎる。
線路のど真ん中と言っても、線路の幅は十分にある。だからこそ、俺は小室さん直伝のゾンビの真似もせずにそのまま素通りしたのである。
案の定、ゾンビは俺が横を通っても、こちらを向きさえしなかった。
「……はぁ。よかった」
ゾンビから十分に距離をとってから、思わず安堵の声を漏らす。
其の時だった。
「ま、待てよ!」
背後から大きな声が聞こえてきた。
俺は慌てて振り返った。
「……紫藤さん?」
その声の主は紛れもなく紫藤さんのものだった。
紫藤さんはこちらに向かって走ってくる。其の背中にはあの大きな荷物を背負って。
「し、紫藤さん! 大きな声を出さないで!」
しかし、もう遅かった。ゾンビは紫藤さんの方を見ていた。
「うるせぇ! お、俺もお前に付いて行くんだよ!」
紫藤さんの怒りの篭った返事がかえってくる。
そして、そのまま紫藤さんはゾンビの横を走って通りすぎる……はずだった。
その瞬間、紫藤さんはものの見事にゾンビの近くで思いっきりコケたのだった。
「あ……し、紫藤さん!」
紫藤さんはなんとか身体を起こす。しかし、その直ぐそばには……いや、ほんとに近くにゾンビが立っていた。
「あ」
そして、それは本当に「あ」っと言う間のことだった。
ゾンビは紫藤さんの首筋に噛み付いたのだ。
目の前でゾンビに人が襲われる。今まで双眼鏡で見ていた光景が、ほんの数メートル先で起きたのだ。
「う……うわぁぁぁ!」
紫藤さんの叫び声が聞こえた。
俺はその叫び声で我に返る。
「紫藤さん!」
俺はその声とともにそのまま紫藤さんの元に駆け寄る。
そして、そのままおもいっきりゾンビに体当りした。
ゾンビはふっとばされる。そのまま俺は紫藤さんを抱き起こし、そこから離れることにした。




