嘘つきな旅人 3
紫藤さんは俺のことを睨んでいた。
俺としても、どう対応したらいいのかわからなかった。
ただ、曖昧に紫藤さんに対しては微笑みかけることしかできなかったのである。
「……なんだよ。笑わないのかよ」
そして、紫藤さんが俺にそれだけ言った。
「あ……あはは。笑うって……え? 紫藤さんのことを?」
俺がそういうと紫藤さんはまた俺に背中を向けてしまった。
「……ああ、そうだよ。嘘だよ。俺は怖がってたんだ。だから、ここまで一人でいられたんだ。一人で逃げたし、一人で食料も盗んできた……だから、こうして生き延びているんだよ!」
しばらくの間、俺と紫藤さんの間には沈黙が流れた。
「……えっと、それって、悪いこと?」
俺は考えぬいてとりあえずそれだけ言った。
紫藤さんは背中を向けたままである。
「えっと……なんというか、俺だって、別に勇敢だったから、こうして人間でいるってわけじゃないよ。ずっと家の中で怖がっていたからなわけだし……」
「……でも、お前、怖がってないじゃないか」
「あー……まぁ、見慣れちゃったからね。それに、あんまり怖がると、一緒に住んでいた二人に悪いから」
小室さんと古谷さんのことが頭に浮かぶ。
一体のゾンビで立ち止まっている場合ではない。一刻も早く、デパートに戻らねばならないのだ。
「紫藤さん。悪いんだけど、俺は行くよ。待っている人がいるからね」
「……え?」
俺がそう言うと紫藤さんは悲しそうな顔をした。というか、むしろ、絶望しきった表情で俺を見た。
「……お、おい。嘘だろ。お前……あんな線路のどまんなかにゾンビがいるんだぞ? それなのに……」
「大丈夫だよ。大きな音とか出さなければゾンビも襲ってこないさ」
俺がそう言っても紫藤さんはまるで信じていない様子だった。
どうやら、紫藤さんはかなりゾンビが怖いらしい。宮本さんと同じくらいか、それ以上という感じである。
「えっと……紫藤さんは、もう俺とはこれ以上一緒に来ない?」
俺がそう言うと紫藤さんは何も言わなかった。しかし、その無言は明確に返答を著しているようにも思えた。
「そっか……わかった。俺、荷物置いていくよ」
俺は背中から荷物を置く。
紫藤さんはなにか言いたそうに俺を見ていた。
「じゃあ、紫藤さん。俺、行くから」
「……わかった。さっさと……行けよ」
紫藤さんは俺にぶっきら棒にそう言って、また背中を向けてしまった。




