嘘つきな旅人 1
そして、次の日。
「うー……眠い」
俺は言われたとおり、一晩中見張りを続けていたせいで、かなり眠かった。
「おい、フラフラすんなよ。しっかり歩け」
背後から紫藤さんの厳しい声が聞こえてくる。
そうはいっても、こんな重い荷物を持たされた上に、ほぼ眠っていたのだ。立っているのだって精一杯なのである。
「あ、あはは……ごめん」
俺が謝ると不機嫌そうに紫藤さんはそっぽを向いてしまった。
やっぱり俺はどうにも紫藤さんに嫌われているようである。
そのままなんとか俺は歩き続けた。ゾンビに遭遇しなかったことが不幸中の幸いだったが、既に隣の駅に辿り着いた時はフラフラの状態だった。
「で、お前が目指しているのは隣の駅なんだよな?」
ベンチに座って一休みしていると紫藤さんが俺にそう訊いてきた。
「うん。なんとかここまで来られた……紫藤さんのおかげだよ」
「……は? 俺のおかげ?」
怪訝そうな顔で俺を見る紫藤さん。俺は思わずまた変なことを言ってしまったと後悔した。
「おい、俺のおかげって、どういうことだよ」
「え……あ、いや……ほら、食料とか分けてもらったし。そういう意味で……」
俺が笑顔でそう言うと紫藤さんはキッと俺を睨みつけてきた。
そして、ズイと身体を俺の方に突き出してくる。
「……お前、どうしてそんなこと言うんだよ」
「え……な、なんで?」
「……いいか。この世界はもう終わりなんだ。人と人の関わりなんてもう意味がないんだ。この世界にいるのはゾンビだけ……それなのに、どうしてお前はそんな呑気なこと言っていられるんだよ」
強い口調で紫藤さんはそう言った。
俺はそんな紫藤さんの話を聞いていて、少し前までの自分を思い出していた。
家の中で一人……話しかける相手といえば、テレビくらいなもの。
もしかして紫藤さんは、ずっとそんな状態だったんじゃないだろうか。
しかも、俺は家の中にいたが、紫藤さんはずっと放浪の旅だった。きっと、俺よりも辛いことがあったに違いない。
そして、何より俺は小室さんや古谷さんと出会えた。でも、紫藤さんは……
「あ……ごめん。紫藤さん」
「……ふざけんなよ! 謝ったりすんな! どうして、お前は……」
紫藤さんは俺から顔をそむけ、背中を向けた。心なしか、その声は涙声で震えているように聞こえた。




