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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター15
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嘘つきな旅人 1

そして、次の日。


「うー……眠い」


 俺は言われたとおり、一晩中見張りを続けていたせいで、かなり眠かった。


「おい、フラフラすんなよ。しっかり歩け」


 背後から紫藤さんの厳しい声が聞こえてくる。


 そうはいっても、こんな重い荷物を持たされた上に、ほぼ眠っていたのだ。立っているのだって精一杯なのである。


「あ、あはは……ごめん」


 俺が謝ると不機嫌そうに紫藤さんはそっぽを向いてしまった。


 やっぱり俺はどうにも紫藤さんに嫌われているようである。


 そのままなんとか俺は歩き続けた。ゾンビに遭遇しなかったことが不幸中の幸いだったが、既に隣の駅に辿り着いた時はフラフラの状態だった。


「で、お前が目指しているのは隣の駅なんだよな?」


 ベンチに座って一休みしていると紫藤さんが俺にそう訊いてきた。


「うん。なんとかここまで来られた……紫藤さんのおかげだよ」


「……は? 俺のおかげ?」


 怪訝そうな顔で俺を見る紫藤さん。俺は思わずまた変なことを言ってしまったと後悔した。


「おい、俺のおかげって、どういうことだよ」


「え……あ、いや……ほら、食料とか分けてもらったし。そういう意味で……」


 俺が笑顔でそう言うと紫藤さんはキッと俺を睨みつけてきた。


 そして、ズイと身体を俺の方に突き出してくる。


「……お前、どうしてそんなこと言うんだよ」


「え……な、なんで?」


「……いいか。この世界はもう終わりなんだ。人と人の関わりなんてもう意味がないんだ。この世界にいるのはゾンビだけ……それなのに、どうしてお前はそんな呑気なこと言っていられるんだよ」


 強い口調で紫藤さんはそう言った。


 俺はそんな紫藤さんの話を聞いていて、少し前までの自分を思い出していた。


 家の中で一人……話しかける相手といえば、テレビくらいなもの。


 もしかして紫藤さんは、ずっとそんな状態だったんじゃないだろうか。


 しかも、俺は家の中にいたが、紫藤さんはずっと放浪の旅だった。きっと、俺よりも辛いことがあったに違いない。


 そして、何より俺は小室さんや古谷さんと出会えた。でも、紫藤さんは……


「あ……ごめん。紫藤さん」


「……ふざけんなよ! 謝ったりすんな! どうして、お前は……」


 紫藤さんは俺から顔をそむけ、背中を向けた。心なしか、その声は涙声で震えているように聞こえた。

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