理性とゾンビ 2
その時だった。
「あうー……」
そんな呻き声とともに、トイレのドアがバンバンと叩かれている。
思わず俺は再び緊張してしまった。
そんな音を出したらまたゾンビが戻ってきてしまう……そう考えると俺は即座にトイレの方に近寄って行った。
そして、トイレのドアを急いで開く。
「あー……あう?」
「……なんだよ」
先ほどの女の子ゾンビだった。
「あうー……うあー……」
「だからさぁ……あうー、とかじゃわかんないんだよ。俺、急いでるから」
言葉がわかるといっても、ゾンビはゾンビだ。これ以上この子と関わっている暇はない。
ぐずぐずしていると、またゾンビが戻ってきてしまうかもしれない。
「じゃあね、ゾンビちゃん」
俺はそれだけ言ってコンビニの自動ドアに向かうことにした。
しかし、その瞬間、後ろからいきなりぐっと引っ張られる感覚があった。
「な……なんだ?」
後ろを振り返ると、女の子ゾンビが俺のリュックサックを引っ張っていた。
「な……なんだよ」
「あう。あー……」
すると、女の子ゾンビは指先でコンビニの入り口を指し示した。
「は? な、何?」
「あー……あうー……」
「あうー……ってねぇ……よくわかんないけど、俺、行くから」
「あう! うあー……」
今度は少し興奮したように俺のリュックサックを激しく引っ張った。
さすがの俺も一体このゾンビが何をしたいのかわからないので、いい加減イライラしてくる。
「おい! 俺は、急いでいるんだ! 早くしないとお前らの仲間が戻ってきちゃうだろうが!」
俺がそう怒鳴ると、女の子ゾンビは少しビクンと怯えたように反応した後で、ゆっくりと俺のリュックサックを引っ張るのをやめた。
「……そうそう。わかればいいんだよ」
俺はそう言って今度こそ入り口に向かった。