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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター15
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旅人との出会い 7

 それから俺は、深夜12時間になるまでずっとホームをウロウロしていた。


 電車の来ないホームは、本当に終わってしまった後の世界のようだった。


 ゾンビが来るような気配はないし、どこかからゾンビが出てくるような気配もない。


 俺は時折ベンチで眠っている紫藤さんを見ながら、それとなく見張りを続けた。


 そして、状況が変わったのは、ちょうど12時を回った頃だった。


「……お前、まだ居たのかよ」


 俺がホームをうろついていると、そんな声が聞こえてきた。


「あ……起きたの? 紫藤さん」


 俺は目を覚ましたらしい紫藤さんの方に近づいていく。紫藤さんは寝起きで少し機嫌が悪そうではあるが、俺の方を見ている。


「……なんで、まだ居るんだよ」


「え? だって……見張りをしろって言ったの、紫藤さんじゃないか」


 俺がそう言うと紫藤さんはさらに不機嫌そうに俺を見る。俺は少し怯えながら紫藤さんを見る。


「何か……悪いこと、言ったかな?」


「……別に。ただ、お前、変なヤツだなぁ、って」


「え? なんで?」


 紫藤さんは俺から目を反らし、少ししてからその先を続ける。


「……普通、食料があったらそれ持って逃げるだろ。それなのに、どうしてまだ残ってんだよ」


 そう言われて俺は紫藤さんが何を言いたいのかわかった。そして、言われてみればそういうこともできた、とその時始めて気付いたのだった。


「あー……まぁ、そうだね」


「……もしかして、気付いてなかったのか」


「え? あ、あはは……まぁ、ね。紫藤さんをデパートまで案内するって言っちゃったし……あ、後……正直、俺一人じゃデパートまで行けるか不安で……」


 俺はありのままを言った。確かに一人で逃げることもできるのだろう。だが、こんな極限状況で一人で逃げるのは危険な気がする。


 それに、こういう場合一人で逃げる人ってのは大抵ゾンビの餌食になっちゃう展開ってのが多い……気がする。


 俺がそういうと紫藤さんは、大きくため息をついた。


「……ったく。あのなぁ、お前、こういう時は、俺のことが心配だった、とか、お世辞でもいいから言っておくんだよ」


「え? いや、でも紫藤さん結構強そうだし……」


 俺がそう言うと紫藤さんはキッと俺を睨んだ。


「……もういい。いいか? 見張り、続けてろよ。絶対眠るんじゃないぞ」


「え? 紫藤さん、もう十分寝たんじゃ……」


「あ? うるせぇな。まだ眠いんだよ。じゃあな」


 そういって紫藤さんはまた目をつぶってしまった。どうやら、俺はホームをウロウロするのを続けなければいけないらしい。


 俺は仕方なくそのまま紫藤さんのベンチを離れることにした。


「……おい」


 と、背後から紫藤さんの声が聞こえてきた。


「え? 何?」


「……ありがとよ」


「え?」


 あまりにも小さい声だったが、紫藤さんはなにか言ったようだった。しかし、俺が聞き返した時には、既に再び眠りついてしまったのだった。

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