旅人との出会い 5
それから俺達は程なくしてまた歩き出した。
線路の上をひらすら二人共、無言のままに歩き続けていく。
線路の上を歩いて行くなんてのはまるで何かの映画のようで、少しワクワクしたが、これから歩いて行く距離を考えると憂鬱になってくる。
紫藤さんは、何も喋らずに俺の前を黙々と歩いている。俺も其の後ろを淡々とついていく。
それからしばらく歩いているとまた駅が見えてきた。すでに太陽は空の上に高く上がっている。
「あそこの駅で休むぞ。そろそろ腹も減ったしな」
そう言われて俺は急激に空腹を意識してしまった。
言われてみれば朝から何も食べていない。
そのまま駅について、休憩用のベンチに座りる。
「さてと、飯だ」
嬉しそうにそういいながらリュックを開け、紫藤さんはなにかを取り出した。
菓子パンだ。そして、ペットボトルに入った飲み物もある。見ればリュックの中には大量の食料が入っていた。
「あ……紫藤さん」
「あ? なんだよ」
「その……食料って……」
すると紫藤さんは警戒心を露わにしてキッと強く俺を睨んだ。
「なんだよ。やらねぇぞ」
「あ……そ、そういうのじゃないんだ……その食料、どうしたのかなぁ……って」
「どうしたって……頂いてきたんだよ。お前だってやってるだろ? 今じゃコンビニには店員もいないし、スーパーにはレジ打ちもいないんだ。で、生きていれば腹が減るんだから仕方ないことだ」
そういって紫藤さんは菓子パンを大きく口を開けてかじりついた。
まるで俺に魅せつけるように嬉しそうに食べる紫藤さん。いや、もちろん、彼女にそんな気はないのだろう。
だが、俺にとっては紫藤さんが食事をしているのを見せられるのは、この上なくキツイ拷問のように思えた。
「……なんだよ」
菓子パンを半分くらい食べ終えた辺りで、紫藤さんは迷惑そうに俺を見る。
「え……ど、どうかしたの?」
「お前なぁ……そんな顔で見られたら、飯がまずくなるだろうが」
慌てて俺は紫藤さんから顔を逸らした。
「ふぅ~ん……ま。どうせ、腹が減ってるんだろ? 俺は心の優しいヤツだからよ。お前に食料を恵んでやらないこともないんだぜ?」
「え? ほ、ホント!?」
俺は思わず勢い良く振り返って紫藤を見た。俺の反応に紫藤さんも少し驚いているようだった。
だが、しばらくすると、嬉しそうにニンマリと微笑んで紫藤さんは俺を見る。
「ただし……条件があるけどな」
「……条件?」
俺は、瞬時にものすごく嫌な予感がしたのだった。




