旅人との出会い 2
「……人間、だよな?」
俺は窓に近寄ってその様子をよく見てみることにした。
ゾンビ病患者にしてはあまりにも血色が良すぎる。それにゾンビが眠るというのもおかしい。
もっとも、小室さんや古谷さんのようなイレギュラーという場合も考えられるが、十中八九人間だろう。
俺は思わず電車に飛び乗り、その子の近くに歩いて行った。
女の子は完全に眠ってしまっている。大きないびきを出しながら、のんきそのものという感じで眠っているのだ。
「あー……すいません」
俺が声をかけても女の子は起きようとしない。仕方なく、俺は肩を揺すってみることにした。
「……んあ? な、なんだ?」
「あ……すいません。起こしてしまって」
俺は思わず謝ってしまった。見ると、女の子は俺のことをジッと見ている。
小室さんや古谷さんと違って、鋭い目つきだ。それでいて髪の色は金髪……ゾンビがはびこる前の日常だったなれば、絶対に話しかけないタイプの女の子である。
「……なんだよ。お前」
「え……あ……ご、ごめんなさい。えっと……俺……」
すると、女の子は俺の首根っこを掴んで立ち上がる。
「……俺は紫藤ヘレナ。お前の名前は?」
「え? あ、赤井……レオです」
俺が名前を言うと、ようやく不良っぽい女の子……紫藤さんは俺の首根っこから手を離してくれた。
「ふんっ……どうやら、名前が言えるってことはゾンビじゃねぇらしいな」
そう言うと紫藤さんはリュックを背負い直し、俺の方を見る。
「お前、行く宛あるのか?」
「え……あ、うん。俺は隣の隣の隣……のさらに隣の駅に行かなきゃいけないんだ」
「はぁ? なんだ。随分遠い所から来たんだな。ったく。どこへ行ったって同じだぜ。世の中ゾンビだらけだ。家の中に篭って方が利口だぞ」
そう言うと紫藤さんはそのまま電車のドアから出ていこうとして、歩いて行ってしまう。
「え……ちょ、ちょっと! どこ行くの?」
「あ? どこでもいいだろ。お前は線路を歩いて行くんだろ? 俺はこの街で安全に飯と寝床を確保できる場所があるかどうか探すんだよ」
「探すって……紫藤さんはどこから来たの?」
「どこって……この路線の終点だよ」
「終点……そんな遠くから?」
「ああ。そうだよ。ったく、家に帰ってきてみれば、父ちゃんも母ちゃんもゾンビになってやがる。そのまま家を飛び出して、流れ流れてここにいるってわけだ。ま、旅人みたいなもんだな」
そういって紫藤さんはそのまままた歩き出してしまった。
直感的に俺は思った。
この人は味方につけておいた方がいい、と。
「あ、あの!」
去っていこうとする紫藤さんの背中に俺は声をかける。
「なんだよ。まだ何か用か?」
「え、えっと……食料と寝床が確保出来る場所に心当たり、あるんだよね……」
俺は笑顔を浮かべてそう言ったのだった。




