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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター13
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二人の元へ 2

 俺はその場に立ち止まった。それまで考えていた自転車云々の話はその瞬間に頭から消し飛んでしまった。


「……どこへ行くんだ、と聞いているんだが?」


 聞こえてくる声……俺はゆっくりと振り返った。


 見ると、其の先には、宮本さんが拳銃を構えて俺を見ていた。


「どうしたんだ? いきなり車を飛び出して……外は危険だ。早く戻るんだ」


「あ……宮本さん……その……俺は……」


 俺がそう言うと宮本さんは俺のことを見る。


 完全に目がすわってしまっている。なんというか……死んだような目とも違う。たとえるならば……蛇に睨まれる蛙というのはこんな気持なのかもしれない。


「なんだ? 何がいいたい? まさかとは思うが……私を置いてこのままどこかに行くっていうんじゃないよな?」


 そういって宮本さんは俺のことをキッと睨む。拳銃の銃口が鈍く黒光りしているのを見るとなんだか心臓の鼓動が高まっていく気がした。


 ごくりと唾を飲み込む。今のかなり不安定な宮本さんはともすると平気で発砲するだろう。だからこそ、ここは慎重に動かなければならない。


 だが、かといって車に戻るわけにもいかない。俺は行かなければならないのだ。


「なぁ……赤井君。私に酷いことをしないでくれ」


「……え?」


 そう言うと宮本さんは拳銃を下ろした。俺はふいにそれまで張り詰めていた気持ちが楽になる。


「私を一人にするっていうのか? 君がいなくなったら私は一人じゃないか……それなのに、君は……」


 言われてみれば確かにそうだ。ここで俺が行ってしまえば宮本さんは一人。


 こんな不安定な状態の宮本さんを一人で残していくのも、考えてみれば相当酷な話である。


「お、俺は……」


「君は優しい男の子だ。アイツラのことが気にかかるのもわかる。だが、アイツらは人間じゃないんだ。気にする必要なんてないんだよ」


 その言葉で俺の何かが切れてしまった。宮本さんの方を見る。


 不安定な笑顔で俺の方を見ている。本当に宮本さんは心の底から俺に去ってほしくないのだろう。


「でも……ダメだ」


「え?」


 俺は宮本さんに背を向ける。そして、そのまま走りだした。


「あ、赤井君……赤井君! 待って! 待ってくれ! ……待てと言っているだろう!」


 背後でパァンと大きな音がした。銃声だ。


 しかし、俺の身体を弾は貫通しなかった。どうやら宮本さんが錯乱して放っただけらしい。


 もしかしたら背後から背中を撃たれるかもしれない。そんな覚悟は十分あった。だが、それはなかった。


 俺は直線にしばらく走った後で、そのまま曲がり角を曲がった。壁にもたれかかって大きく息を吐き出す。


「……宮本さん。ごめんなさい」


 でも、俺は小室さんと古谷さんを迎えに行かなければならない。


 二人は人間だ。二人がいたからこそ、俺はここまで正気を保っていられたんだ。だからこそ、俺は二人にそばにいてあげたいし、いたいのである。


「……さて、行くか」


 落ち着きをなんとか取り戻そうとしながら、俺は歩き出した。

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