デパートでお買い物 5
「宮本さん! 聞こえてますか?」
「え……あ、ああ。赤井君……た、助かったのか?」
「ええ。小室さんのおかげです」
俺がそういって小室さんを見る。しかし、小室さんは無表情で……というか、どことなく機嫌悪そうにしながら俺を見ていた。
「そ、そうか……よかったぁ……」
と、急に安心してしまったのか、宮本さんは涙を流している。
「あ……と、とにかく! ゾンビがいるってわかった以上、食糧を持ってさっさと家に帰りましょう!」
俺がそういうとよろめきながらも宮本さんは立ち上がった。
「えっと……古谷さん、悪いんだけれど、食糧の入ったカートを頼めるかな?」
「え? どうしてです?」
俺はそう言ってから、小室さんに近づいていき、その冷たい手を握った。
「俺は小室さんを連れていかなきゃいけないから」
「ああ……わかりました。ほら、婦警さんも私についてきてください」
「だ……ダメだ!」
と、いきなり宮本さんが大きな声を出した。
「……え? なんですか? いきなり」
宮本さんがあまりにも大きな声を出すので、俺は思わず驚いてしまった。
宮本さんはなぜか俺のことをすがるような目つきで見つめてくる。
「た、頼む……こんなところにはもう居たくない……赤井君……私を車までつれていってくれ……」
「え……えぇ……」
予想外のお願いにさすがに俺も返す言葉がなかった。見ると、小室さんも古谷さんも言葉を失って
いる。
「お願いだ……カートに入っている食料は私が持つ……たから……」
涙目でそう言う宮本さん。俺は困ったように小室さんと古谷さんを見た。
「……まぁ、しょうがないんじゃないですか」
呆れ気味にそういう古谷さん。小室さんも小さく頷いていた。
「あ、あはは……わかりました。宮本さん。一緒に行きましょう」
「あ……ありがとう」
安心したようで、顔を柔らかく笑顔にしながら、宮本さんはそう言った。
「じゃあ、俺と宮本さんは先に車に行っているから。なんか……ごめんね」
二人にそう言ってはみたが、二人共やはり相当不満そうに俺のことを睨んでいた。そんな眼で見られたって……仕方ないのだが。
「あかい、くん」
と、そのまま歩き出そうとすると、小室さんの背後から聞こえてきた。
「え……小室さん?」
小室さんがたしかに俺のことを見ていた。そして、何か言いたそうにしている。
「小室さん、赤井君に何か言いたいこと、あるんですか?」
「あ……ちがう、ない」
小室さんはそのまま何も言わなくなってしまった。
「赤井君……早く車に行ってくれ」
辛そうな声でそういう宮本さん。俺は小室さんのことが気になったが、仕方なくそのまま宮本さんを連れて車へと向かった。




