怪しい婦警さん 1
「え……騙されているって……俺が? しかも、あの宮本さんに?」
「ええ。そうです。騙されていますね」
リビングに戻って、テーブルを挟んで座って俺と小室さんと古谷さんは向かい合った。
小室さんの方は相変わらず無表情だったが、古谷さんの方は憮然として俺にそう言ってきた。
「そんな……どうしてそんなことを言うのさ」
俺がそういうと、むしろなんで俺がそんなことを言っているのかという具合で、小室さんと古谷さんは俺のことを見てきた。
「……はぁ。まったく。赤井君。いいですか? あの人は、人間なんですよ?」
「……え?」
古谷さんがため息混じりにそう言った。俺は古谷さんの言っていることの意味を理解できなかった。
「人間って……まぁ、そうだね」
「わかってないですね。まぁ……いいたくないですけど、あの人は私達と違って、正真正銘の、人間なんです。わかってますか?」
古谷さんは俺に向かって少しいい辛そうに、「人間」という点を強調した上でそう言った。
俺は何も返すことができず、ただ、古谷さんのことを見つめる。自分の言ったことに対し俺が理解していないことを古谷さんはわかってしまったようで、大きくため息をついた。
「……わかりました。もっとちゃんと言うならば、あの人は、赤井君と同じ人間、ってことです」
「……えっと、古谷さん。言っていること、わからないよ。俺にとっては、小室さんも古谷さんも人間だし――」
俺が続きを言おうとすると、古谷さんがそれを制す。
「……赤井君。私達が今日の朝まで悩んでいたことはなんですか?」
「え……食料の調達問題?」
「そうです! 食料! 赤井君とあの人には食料が必要なんです! そして、あの人はゾンビが嫌い……私の言いたいこと、わかりますか?」
古谷さんが興奮気味にそうまくしたてても、俺は理解できなかった。
「あのひと、わたしたち、じゃま」
「……え?」
ふと、小室さんがつぶやくようにそう言ったのに、俺は反応する。
「しょくりょう、と、あんぜん、あのひと、ほしい」
「あ……うん。だけど、宮本さんは、別に小室さんのことを邪魔だなんて……」
俺がそう言おうとすると、小室さんはその生気のない瞳でジッと俺のことを見た。
……ホントに、そうなのか?
俺は宮本さんの何を知っている? 小室さんと古谷さんはこれまでこの家で一緒に過ぎしてきたから、なんとなく互いのことはわかっている。
だけど、宮本さんは今日会ったばかりだ。それなのに――
「話し合いは……終わったか?」
と、宮本さんの声が聞こえてきた。振り返ると、少し申し訳無さそうにしながら俺達のことを見ていた。




