ゾンビと人間 1
「……はぁ」
俺の背後から、何回目かわからないため息が聞こえる。俺は夜の街に向けていた双眼鏡から目を離し、振り返った。
「そんなに落ち込まないで下さいよ」
俺がそういうと、ベッドの上に座る宮本さんは悲しそうな顔で俺を見た。
「……すまない。でも……」
そして、俺がそう言ったにも関わらず、宮本さんはため息をついた。
「古谷さんのことなら、気にしないでください……って言っても、無理ですね。まぁ、古谷さんも結構、ナイーブなところ、ありますから」
俺がそう言うと宮本さんは不思議そうに俺のことを見ていた。
「……君は……いや、君達は、もうここで暮らし始めて、長いのか?」
「まぁ、小室さんとはもう一ヶ月近くなりますかね。古谷さんとは二週間。それなりの付き合いですか」
「そうか……市民が暴徒化してから、そんなに経つのか」
悲しげな調子で、宮本さんはそう言った。そして、顔を手で覆い、再びため息をつく。
「……なぁ、赤井君。教えてくれ。この状況はいつまで続くんだ?」
「え? さぁ……俺が教えてほしいくらいですよ」
俺の答えは宮本さんの望むものではなかったようで、少し残念そうだった。
「……じゃあ、質問を変えよう。どうして君はそんなに平気でいられるんだ?」
すると、宮本さんは少しヒステリックな調子で俺に聞いてきた。俺もそんな顔で見られるとなんだか怖くなってしまう。
「平気って、別に平気じゃないですよ」
「平気じゃないか! 現に君は、あの二人とも暮らしてきたんだろう? どうして、平気で――」
宮本さんは声を少し荒らげて俺にそう言った。
「ちょっと待ってください」
思わず俺は宮本さんの言葉をさえぎってしまった。言葉を遮られた宮本さんは驚きの表情で俺を見る。
「え……な、なんだ?」
「今の、どう意味ですか? 別にこの状況下とあの二人と暮らしてきたこと、何か関係ありますか?」
「だ、だってそうだろう? あの二人はゾン――」
「違います」
そこまで宮本さんが言おうとしたところで、俺は言葉をさえぎった。言葉を遮られた宮本さんは驚いていたようだった。




