残念な婦警さん 8
「ひっ」
と、宮本さんが小さく悲鳴を上げるのがわかった。おそらく、古谷さんもにも聞こえたのだろう。古谷さんの表情は少し怖いものになっていた。
「……アナタ、私達のこと、何だと思っているんですか?」
「え……な、何って……」
目をおもいっきり泳がせながら、宮本さんは古谷さんを見ている。
「アナタ、ゾンビなんていないって言っていながら、私のこと、怖がっていますよね?」
そう言いながら一歩ずつ古谷さんは宮本さんに近づいてくる。宮本さんが小刻みに震えているのは、一番近くにいる俺にはすぐにわかった。
「こ、怖がってなんか……わ、私は……」
「じゃあ、何だと思っているんですか? 私や小室さんのこと、何だと思っているんですか?」
「そ、それは……き、君達は私が守るべき一般市民で……」
「へぇ。だったら、そんな風に目の端に涙を浮かべなくてもいいんじゃないですか?」
宮本さんはそう言われるまで意識していなかったようだったが、確かにその目には恐怖のせいか、うっすらと涙が浮かんでいた。
「わ、私は……」
「その涙が、私と小室さんのこと、ゾンビだと思っていることの何よりの表れですよ」
そう冷たく言い放つと、古谷さんは小室さんの方に向かっていった。
「ほら、小室さん、寝室に行きますよ」
「え。なんで」
「だって……ここに私達みたいな『ゾンビ』がいたら、婦警さんが怖がってゆっくりできないじゃないですか」
古谷さんはわざとらしくそう言った。宮本さんはその言葉に何も言い返すことが出来ないようで、ただ茫然と突っ立っていた。
そして、小室さんが立ち上がると、二人はそのままリビングから出て行ってしまった。
「え……ちょ、ちょっと。二人とも?」
俺が呼び止めようとしても、二人はそのまま振り返りもせずに寝室の方へ向かって言ってしまった。
そして、リビングに残されたのは制服姿の婦警さんと俺だけ。
「……参ったなぁ」
俺はそう呟くことしかできず、大きくため息をついたのだった。




