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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター9
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残念な婦警さん 6

 その言葉に先ほどまで意気消沈していた宮本さんが、いきなり顔を上げた。


「え? そ、そうなのか?」


 急に慌てた様子で、宮本さんは俺の顔を見てきた。


「え、ええ……ま、まぁ、明日、俺がコンビニまで行ってきますよ」


 俺がそういうと血相を変えて宮本さんは俺の方に身を乗り出してきた。


「そ、それはダメだ! 外には暴徒化した市民がはびこっている。安易に外に出てはいけない!」


 宮本さんは俺がすこし驚くほどに、必死な感じでそう言った。


「……安易に外に出てゾンビに後を付けらていることにも気付かなかった婦警さんに言われたくはないですけどね」


 そう言われて宮本さんは何も言えなくなってしまった。古谷さんは意外と意地悪なところもあるようである。


「と、とにかく! 赤井君一人で外出するなんて絶対にダメだ! 警察官である私がここにいる以上それは認められない」


「でも、食糧がないと……宮本さんも困るんじゃないですか?」


 俺がそう言うと宮本さんは言葉を詰まらせた。


「そ、それは……そうだが……」


 宮本さんもそれは否定できないようである。


 そうなってしまうと、やはり俺がコンビニに行ってくるしかないようである。いずれにせよ、今日の夜ごはんはなしということになってしまうが……仕方ない。


 そうこうしているうちにキッチンからやかんがピーっとなる音が聞こえてきた。お湯が沸いたらしい。


「あ。お湯沸きましたね。取ってきます」


 やかんを持って俺はテーブルに戻ってくる。そして、カップ麺にお湯を注いだ。


「じゃあ、三分待ってくださいね」


 俺がそう言うと宮本さんは何も言わずに黙ったままでカップ麺を見つめていた。三分間の間俺達の間では沈黙が続き、リビングに設置してある時計の音だけがいやに大きく響く。


「……三分、経ったか?」


「え? あ、いや、後少し待った方がいいんじゃないですか?」


 俺がそういうと宮本さんは少し残念そうにしながらうつむいた。よっぽどお腹が減っているのだろうか。


 そして、それからさらに約一分経った。


「あ……そろそろ食べてもいいんじゃないですか」


 俺がそう言うと宮本さんはその言葉を聞くが早いか、カップ麺の蓋を開け、そのまま箸を使い、すごい勢いで食べ始めた。


 あまりの勢いに俺含め、小室さんも古谷さんも何も言えなくなってしまうくらいである。


 ずるずると音を立てながら、行儀も何もお構いなしで宮本さんはカップめんを口の中に流し込んでいく。


 そして、そのままスープをゴクゴクと飲み干して、空になったカップを机の上に置き、満足そうに大きく息を吐いた。


「……美味しかったぁ」


 この上なく幸せそうな顔で、婦警のお姉さんはそう呟いたのだった。

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