残念な婦警さん 1
「……いや、まったく、その……本当にすまなかった……」
俺の向かいに座った婦警さんは、申し訳なさそうに俺に頭を下げた。
結局、俺が家まで背負ってきた後、しばらくしてから婦警さんは目を覚ました。
正直、想像していたよりちょっと重かったが、そのことに関しては婦警さんに言わないようにしておいた。
「あ……いえ。いいんですよ。それにしても助けられて良かったです。俺は赤井レオって言います。婦警さんは?」
「ああ……私は宮本サエコだ。この近くの警察署に務めている警察官だ」
婦警さんは宮本さんと言うらしかった。短い髪に凛とした顔つきは、いかにも頼れる婦警さんといった感じである。
「えっと……宮本さんはどうしてあんなところにいたんですか?」
「ああ。その……今、街中には暴徒化した市民達が多いだろう?」
「暴徒化? ああ、ゾンビのことですね」
俺がゾンビというと、宮本さんはその綺麗な顔をゆがめて俺をにらんだ。
「……あ、赤井君。ゾンビ、とは何のことだ?」
「え? だって、ゾンビはゾンビでしょ?」
「ふっ……あ、あははっ!」
すると、ふいに宮本さんは大きな声で笑い出した。俺は思わずキョトンとしてしまう。
「え……どうしたんですか?」
「ふっ……赤井君。いいか。この世界にゾンビなんているわけがない。あれは映画やゲームの想像上の存在だ。だから、ゾンビなんていないんだ」
「でも、宮本さんは今日、そのゾンビに襲われて――」
「ゾンビではない! あれは、暴徒化している市民達だ!」
宮本さんは俺の言葉をさえぎって興奮気味にそう言った。その表情はあくまで「ゾンビ」という言葉を俺に口にしてほしくないという、感情の表れそのものだった。
「もしかして……婦警さん、ゾンビが怖いんですか?」
そこへ、馬鹿にしたような声が聞こえてきた。しかし、その声を聞いても、宮本さんは反応することもなく、俺の顔を見たままである。
「……赤井君」
「え? な、なんですか?」
「……その、先ほどからずっと気になっていたんだが……君の隣と私の隣にいる二人の少女は……やけに青白い肌をしていないか?」
あくまでそちらの方には顔を向けないようにしながら、宮本さんは俺に訊ねてきた。
「あー……まぁ……そうですね」
俺はそういって小室さんと古谷さんの方を見る。
小室さんは相変わらずの無表情だが、古谷さんは何かを企んでいるようでにやにやとしている。
「そりゃあそうでしょ。私達、ゾンビですから」
そして、古谷さんは嬉しそうにそう言った。




