頼れる婦警さん 2
「……まぁ、といっても、小室さんがいたコンビニに行くだけなんだけどね」
そう言ってしまうとなんだか拍子抜けである。
結局この前はコンビニ行くまではゾンビと出会わなかったし、コンビニの中でもなんとか脱出して帰ってくることができた。
となれば、それこそ、ちょっとコンビニに行ってくる感覚で食糧調達をしてしまえばいいのである。
「大丈夫ですか? 私達も行きましょうか?」
古谷さんが心配そうな調子でそう聞いてくる。
俺は笑顔でそれに返す。
「大丈夫。ちょっとコンビニ行ってくるだけだからさ」
そう言って俺は二階の自分の部屋へと上がって行った。そして、双眼鏡を手に取るとベランダからそれを眺める。
「……といっても、用心することに越したことはないからな」
万が一、コンビニまでの道のりにゾンビが増えている場合もある。
ゾンビは縄張り意識のようなものを持っているわけではあるが、かといってそれがすべてゾンビにあてはまるわけではないのは、今我が家で暮らしている二人の美少女ゾンビを見ればわかることだ。
「……ん?」
と、俺がゾンビを観察していた時だった。
「……あれ、人間じゃないか」
たまたま双眼鏡を動かし、コンビニとは違う方向を見た時に目に入ってきた光景。
家から少し離れた距離の路地の行き止まりに、複数のゾンビに追い込まれて、絶体絶命の人の姿が見えた。
「あれって……婦警さんかな?」
今まさにゾンビに追い詰められ絶体絶命な状態になっているのは、どうやら婦警さんのようだった。
双眼鏡で見ていると、真っ青な顔になって、複数のゾンビ相手に警棒を構えている。
しかし、警棒一本では複数のゾンビを突破するには圧倒的に火力が足りない。
おそらく数の暴力に押しつぶされてしまうだろう。そうなると、婦警さんに待っているのは、ゾンビに遅めのランチになる運命だけである。
「……見たくないな」
俺は双眼鏡を反らした。かといってどうすることもできない。
すでにあんな状況になってしまっている以上、後はゾンビに食われるだけだ。
もっとも、ゾンビに対してなんとか説得することができればあるいは婦警さんを助けることができるかもしれないが、そんなこと無理に決まって――
「あ」
俺はそこまで考えてから思いだした。
いるじゃないか。ゾンビと交渉できる「人間」が。
そう思うが早いか、そのまま俺は階段を下りていった。




