闇夜の探索 5
「え? 小室さんの、真似?」
すると、小室さんはいきなり「あー」と、ゾンビらしい鳴き声を発した。
俺はそれがどういう意味なのか理解できず首を傾げた。
すると、ムッとした感じで小室さんは俺を見てきた。
「まね。して」
「え? あ、うん」
俺はとりあえず「あー」と言ってみた。
すると、小室さんはフルフルと横に首を振った。
「だめ。それじゃ、ぜんぜん、だめ」
「え? どういう風にダメなの?」
「それ、ぜんぜん、ぞんび、ちがう。もっと、ぞんび、らしく」
「……は?」
俺はその時になって小室さんの言っている事、そして、俺にやらせようとしている事の意味がわかった。
もしかして……いや、もしかしなくても、小室さんは俺にゾンビの真似をやらせようとしているというのか?
「ちょ……ちょっと待ってよ。あのねぇ……いくらゾンビの真似をしたからって、襲われなくなるはずないでしょ?」
さすがに俺もそれは無理だろうと思って小室さんに異を唱える。
しかし、小室さんは納得しないようだった。
「だいじょぶ。ぞんび、にんげんとぞんび、そこまできちんと、くべつ、してない」
「えー……でも、人間を見たら襲ってくるじゃないか」
「それは、にんげんっぽければにんげん、おそう。にんげんかぞんびか、わからなければ、ぞんびもおそわない」
小室さんはあくまで真剣のようだ。本気でゾンビの真似をすれば、あの中年ゾンビの前を堂々と通っても平気なのだと言うのか。
確かに、やったことがないから何とも言えないということはある。
俺はゾンビをやり過ごすためにゾンビの真似をしたことがない。というか、普通そんなことをするはずもないだろう。
……でも、一つ思い当たる節はある。
古谷さんのことだ。古谷さんは、俺達と出会う直前までゾンビとして振舞っていた。
だけど、彼女は見た目はゾンビだが、中身は完璧人間である。
そんな彼女がゾンビの真似をしていても襲われなかった。とすれば、もしかすると、俺だってゾンビの真似をすれば襲われないんじゃないだろうか?
「あかいくん」
「え? な、何?」
俺がそんな風に考え込んでいると、小室さんが俺の顔を覗き込んできた。
死んだ魚の目が、俺のことを真っ直ぐに見つめてくる。
「わたし、しんじない?」
そう言われてしまっては、俺としてもさすがに小室さんの提案を拒否することはできない。
「え……あ、いや。そんなことは……ないよ」
……そうだ。小室さんが適当を言っているとは思えない。
だとすれば、それは真実なのだ。俺は彼女の言葉を信じるしかない。
「……よし。行こう、小室さん」
俺が覚悟を決めたのがわかったのか、小室さんは小さく頷いた。




