人間の証明 3
「……え?」
と、その先を見てみると、小室さんだった。
「……あかい、くん。おねがい、ある」
「え? お願い? な、何? 小室さん」
「……ひつよう、として、ほしい」
「……え?」
小室さんが言っていることが今一つわからないのはそのたどたどしい言葉使いのせいではあるが、いきなり言われた其の言葉に、俺は戸惑ってしまった。
「必要とするって……ど、どういうこと?」
すると、小室さんはすこし俯いて声を落として先を続ける。
「わたし……ふるやさんほど、にんげん、らしく、ない。だけど、わたしのこと、ひつよう、として、ほしい」
小室さんは少し恥ずかしそうにしながらそう言った。
俺はその言葉を聞いて、すぐに小室さんが言いたいことは何となく理解できた。
「……ふふっ。馬鹿だなぁ。小室さん」
理解すると、自然と俺は微笑みながら小室さんにそう言ってしまった。
俺がそういうと小室さんは目を丸くして俺を見る。
「あのねぇ。俺にとっては、小室さんも古谷さんも、同じ人間だよ。だから、どっちを特別扱いなんて、するつもりはないんだよ」
その言葉に対して、小室さんは特に表情を変化させることもない……というか、変化させることはできないようだった。
「そう。よかった」
しかし、その代わりに小室さんはホッとしたような調子でそう言った。
「……ありがとう。俺、ちょっと古谷さんのこと、見てくるね」
「あ……ひとりで、だいじょぶ?」
心配そうに俺にそう云う小室さん。
その優しさに俺はすこし嬉しくなってしまった。
「あ、ああ。大丈夫さ。すぐに帰ってくるよ」
「そう……わかった。がんばって」
小室さんを心配させないように強がってそれだけ言ってから、俺は部屋を出た。
「……まったく。やっぱり、小室さんは、必要なんだなぁ」
むしろ、誰かを必要としているのは俺の方なのだ。
そして、何より誰かに必要とされるからこそ、人間は人間として存在できる。
俺はそう思いながら階段を降りる。
そのことを俺は明確に古谷さんにも伝えるつもりで、リビングに向かった。




