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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター5
38/204

人間の証明 2

 柔らかい感触が俺の手に伝わってくる。


 俺も小室さんも、黙ったままでその場にい立ちつくしてしまった。


 俺の方は、ただ小室さんの胸の上に乗ったままの自分の手を見つめる。


 二人とも黙ったままでいるので、部屋の中は完全に沈黙に支配された。


 しかし、そんな中で聞こえてくるものがあった。


 確かにそれは、俺の手を伝わって聞こえてくるもの……かすかではあるが、確実に脈打つ、生命の鼓動……


「え……小室さん、これって……」


「うん。こどう。きこえる?」


 俺が驚いていると、小室さんはなんのことはなしに俺にそう言った。


 鼓動……心臓の鼓動が聞こえてきたのだ。


 まず頭に思い浮かんできたのは疑問だ。


 なんで、ゾンビから心臓の鼓動なんかが聞こえてくるのか。


 ゾンビは死人、屍であって、生きているはずもない……そういうことじゃなかったのか。


 しかし、その次に浮かんできた言葉。


 それは「ゾンビ病」という言葉だった。


 そう。これは「病気」だということだ。


「え……ってことは、ゾンビって……」


 俺が気づいたのを確認すると、小室さんはコクリと頷いた。


「うん。みんな、ちょっと、ぐあい、わるい、だけ。ほんとは、ぞんび、なんかじゃ、ない」


「そう……だったのか」


「だから、あかい、くん。いってた、こと、ただしい」


「え? 俺が言ってた、って?」


 小室さんは俺がそう聞くと、少し顔を反らし、恥ずかしそうにしながら口を動かす。


「わたし、にんげん……ただしい」


「あ、うん……そう、だね」


「……わかってはいても、やっぱり、ぞんび、つらい」


「……え? わかってはいても、って……自分がゾンビじゃないってこと?」


「うん。わたしたち、にんげん。でも、みため、ほぼ、ぞんび。からだ、も、ぞんび、みたいになってる。でも、ちゅうしん、は、にんげん」


 そういって小室さんは俺の目を覗き込んできた。


 その死んだ魚のような目は、まっすぐに俺を見てくる。


「だから、ことば、ひつよう」


「言葉……?」


「うん。ふるやさん、も、ことば、まってる」


 俺はそう言われてようやく、気付いた。


 そうだ。俺は言ってなかった。


 はっきりと、明確な形で古谷さんに伝えてなかったではないか。


 俺は居てもたってもいられなくなりそのまま部屋を出ようとする。


 すると、ふいに俺の服の裾を何かが引っ張った。

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