人間の証明 2
柔らかい感触が俺の手に伝わってくる。
俺も小室さんも、黙ったままでその場にい立ちつくしてしまった。
俺の方は、ただ小室さんの胸の上に乗ったままの自分の手を見つめる。
二人とも黙ったままでいるので、部屋の中は完全に沈黙に支配された。
しかし、そんな中で聞こえてくるものがあった。
確かにそれは、俺の手を伝わって聞こえてくるもの……かすかではあるが、確実に脈打つ、生命の鼓動……
「え……小室さん、これって……」
「うん。こどう。きこえる?」
俺が驚いていると、小室さんはなんのことはなしに俺にそう言った。
鼓動……心臓の鼓動が聞こえてきたのだ。
まず頭に思い浮かんできたのは疑問だ。
なんで、ゾンビから心臓の鼓動なんかが聞こえてくるのか。
ゾンビは死人、屍であって、生きているはずもない……そういうことじゃなかったのか。
しかし、その次に浮かんできた言葉。
それは「ゾンビ病」という言葉だった。
そう。これは「病気」だということだ。
「え……ってことは、ゾンビって……」
俺が気づいたのを確認すると、小室さんはコクリと頷いた。
「うん。みんな、ちょっと、ぐあい、わるい、だけ。ほんとは、ぞんび、なんかじゃ、ない」
「そう……だったのか」
「だから、あかい、くん。いってた、こと、ただしい」
「え? 俺が言ってた、って?」
小室さんは俺がそう聞くと、少し顔を反らし、恥ずかしそうにしながら口を動かす。
「わたし、にんげん……ただしい」
「あ、うん……そう、だね」
「……わかってはいても、やっぱり、ぞんび、つらい」
「……え? わかってはいても、って……自分がゾンビじゃないってこと?」
「うん。わたしたち、にんげん。でも、みため、ほぼ、ぞんび。からだ、も、ぞんび、みたいになってる。でも、ちゅうしん、は、にんげん」
そういって小室さんは俺の目を覗き込んできた。
その死んだ魚のような目は、まっすぐに俺を見てくる。
「だから、ことば、ひつよう」
「言葉……?」
「うん。ふるやさん、も、ことば、まってる」
俺はそう言われてようやく、気付いた。
そうだ。俺は言ってなかった。
はっきりと、明確な形で古谷さんに伝えてなかったではないか。
俺は居てもたってもいられなくなりそのまま部屋を出ようとする。
すると、ふいに俺の服の裾を何かが引っ張った。




