半人、半ゾンビ 7
「ふふっ。いいですね。人間っぽくて」
「え? 人間っぽい?」
「はい。人間は食べないと死んじゃうでしょ? だから、いいなぁって思ったんです」
嬉しそうに俺を見る古谷さん。
その目は憧憬さえ感じさせるような輝きを持っているように見える。
そして、何より俺はそんな目を既に一回、見たことがあるのだった。
「やっぱり人間に、戻りたい?」
「そりゃあ、そうでしょう。ゾンビのままでいたいなんて思いませんよ」
「……小室さんもそう言ったよ。やっぱり、人間に戻りたい、って」
俺がそう言うと、古谷さんは悲しそうに視線を落とした。
先ほどまでの二人の様子……さすがに、古谷さんも言いすぎたと思ったのだろうか?
「……赤井さん。私達、人間に戻れるんですかね」
「え? それは……あー……一応、政府が今ワクチンを作っている最中だっていうし……大丈夫なんじゃないかなぁ?」
「それができるのっていつになるんですか? もしかしたら、このままずっとできないかもしれない……」
「そ、そんな暗くならないでよ。それに、古谷さんはさ、ほとんど人間と変わらないじゃん。俺、今こうして話しているけど、全然古谷さんのことゾンビだなんて思わないよ?」
すると、古谷さんはハァ、と大きくため息をついた。
そして、次に俺を見たときキツイ目つきで俺を睨んでいた。
「……気休めなんて言わないで下さいよ」
「……え?」
「私の、どこが人間と変わらないんですか? 青白い肌……それに、ほら! 冷たいんでしょ!? 私の手」
古谷さんは俺の手を掴んでその青白い手でぎゅっと握ってきた。
冷たい。まるで雪の中に手を突っ込んでいるような、そんな感覚だ。
「ほら、何も言えない……結局、私達はもうゾンビ……生ける屍なんですよ……」
「そ、そんなこと……」
「……もういいです。赤井さん。一人にしてください」
そういって古谷さんはうつむいて小刻みに身体を震わせていた。
それを見て俺は、古谷さんが小室さんとは違い感情表現が出来る方のゾンビだということを思い出した。
そのまま俺は食べかけのカップラーメンをキッチンの流しに捨て、何も言うことができずにリビングを出て二階に向かった。




