半人、半ゾンビ 2
俺はゆっくりとゾンビの方に向かって歩き出した。
そして、数メートルまで近づいてからゾンビをもう一度観察して見る。
青い白い肌、そして、焦点の定まっていない死んだ魚のような目……小室さんとほぼ同じゾンビとしての特徴が表れている。
どう見たって、ゾンビだ……
ただ、小室さんと同じように、その子もゾンビにしては可愛い感じで、目立った外傷はないようだ。
「あ……あのー……」
俺がそう呼び掛けると、ゾンビの子は瞬時に振り返った。
「え……」
思わず声を漏らす。ゾンビがあんな俊敏に行動できるとは思わなかったからだ。
「あ……ああ……」
ゾンビの子はこちらを見ている。そして、声を漏らしていた。
「あ、あの……アナタ、ゾンビ、ですよね?」
自分でもどうかしていると思ったが、俺はその女の子ゾンビに向かってそう言った。
すると、なぜか女の子ゾンビは両目にうっすらと光るものを浮かべた。
あれは……涙? 俺がそう思った瞬間、女の子は嬉しそうにほほ笑んだ。
「あ、アナタ……人間、ですよね?」
「え?」
信じられなかった。
そのゾンビは、まるで人間のように……というか、人間そのもののような物言いで、俺に疑問を返してきたのだ。
「あ……はい。人間、ですね」
「よ……よかったぁ……」
安堵した女の子はその場にペタリと座り込んでしまった。
……え? っていうか、今、喋ったよな? 明確に、俺と同じように喋っていた。
「え……ちょ……アンタ、人間?」
「え? ああ。私ですか? あはは、人間というか……ゾンビモドキ、ですかね?」
苦笑いを浮かべながら、女の子はそう言った。
俺は言葉を失ってしまった。
喋れるゾンビに会うのはこれで二回目となるわけだが、まさかここまで流暢に喋れるゾンビに会うとは思ってみなかったからである。
「えっと……そっちの方は、ゾンビ、ですか?」
女の子がチラリと小室さんの方を見る。
「え? ああ。いや、彼女は――」
「そう。わたし、ぞんび」
俺がそれ以上先を言うのをさえぎって、小室さんははっきりとそう言った。
俺は思わず小室さんの方を見る。
小室さんの死んだ魚のような目は、明確に不機嫌そうな感じだった。
「小室さん……?」
「あかい、くん。そのこ、なまえ、なに」
「え? ああ。そうだ。俺は赤井レオ。えっと、君の名前は?」
俺が戸惑いながらも自己紹介すると、女の子は嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、私、古谷クレア、って言います。よろしく」
愛嬌のある笑顔で、ゾンビらしき女の子はそう言った。




